青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

ネオン街、夜の優しい駅灯り。

2024年07月05日 23時00分00秒 | 弘南鉄道

(土手町慕情@中央弘前駅)

この日の宿は、中央弘前駅付近の「土手町」と言われる旧市街に取った。大手のチェーン系ビジネスホテルを選ぶなら、圧倒的に弘前駅周辺だったのだが。荷物を置いて部屋付きのお茶セットで一息ついてから、夜の町に繰り出す。弘前市街でも随一の歓楽街である土手町付近、地方都市といえども金曜の夜は路地に建ち並ぶ飲食店やスナック、バーや夜職の方々のきらびやかなお店に明かりがともり、ボーイさんは建物の前で道行く人を誘い込んでいる。そんな弘前の夜を横目に、土手町から鍛冶町へ続く坂道を歩きつつ土淵川のほとりに出ると、中央弘前の駅が見えてくる。いかにも「郊外電車」の始発駅として、ひときわ風情ある佇まいを今に残すこの駅が好きだ。金曜の夜、華やかなネオン街を一歩外れた片隅で、津軽の優しさと温かみを閉じ込めたようなオレンジの電飾が輝く。

弘南鉄道大鰐線・中央弘前駅。昭和27年、弘前電気鉄道が開通した際に設けられたターミナル駅である。弘前電気鉄道は、弘前の有力な財界人と三菱電機がタッグを組んで設立された鉄道会社で、大鰐から奥羽本線の西側をバイパス的に通過し、弘前城を中心としたかつての弘前の旧市街にアクセスするルートで敷設されました。将来的には、五能線の板柳や、弘前で西方へ分岐して西目屋村方面を目指す計画もありましたが、当初より三菱電機のデモンストレーション的な路線だったようで、地上設備や車両は常にギリギリの間に合わせの状態でした。結局、一次開業であった大鰐~中央弘前間の開通以降は具体的な延伸計画に着手できず、弘前駅の西方1.3kmの位置にあるこの中央弘前駅をターミナルに弘前市街西部の交通を担いますが、国鉄線に接続しないという線形が致命的となって利用者は低迷。昭和45年に経営危機から弘南鉄道に吸収され、弘前電気鉄道は解散してしまいました。

午後8時、中央弘前駅の、人っ子一人いない待合室。コンビニで買った缶チューハイをちびり。あまりお行儀が良いとは言えぬ所業だが、金曜日の夜だし赦してほしい。弘前電気鉄道として20年も営業出来ず、そして弘南鉄道大鰐線となってから半世紀。昭和から平成にかけてのバブル期は、団塊の世代の通勤通学需要もあって乗客数を増やしましたが、兵どもが夢の跡。2013年(平成25年)に弘南鉄道の社長自らが大鰐線の存廃に言及、その後は沿線自治体の必死の支援で何とか生きながらえている状態にあります。中央弘前駅周辺の完全な旧市街化、頼みの綱の大鰐町はバブル期のリゾート開発に失敗し財政破綻状態で頼れる状態になく、そもそも一度経営難で立ち行かなくなった路線ですから、なかなか活性化策も出てきません。収益面の悪化が設備投資を細らせるのか、昨年は8月の大鰐駅構内での脱線事故をきっかけにした全線の路盤調査で、多くの軌道変異や不具合が発覚。弘南線・大鰐線双方の運行を取りやめ、設備点検のため半年近くに亘る長期間の運休を余儀なくされていました。

当然、半年も電車を動かさなければ全く収益が上がりませんので、2024年3月の弘南鉄道自体の決算は会社全体で2億3000万円の経常損失を計上しました。赤字額は弘南線が9662万円、大鰐線が1億3068万円で、さすがにサイフの底が抜けるレベルの赤字幅でございます。2020年(令和2年)に「弘南鉄道活性化基本方針」として打ち出された施策は、「2020年からの10カ年の支援を前提としつつも、2023年度末までの収益状況によっては存廃を判断する」という内容になっていまして、正直、これがあったから「弘南線はともかく、ワニ線はここまでかぁ・・・」って内心思ってたんですよね。そしたら、私が津軽を訪れたその日に弘前市長と大鰐町長が何やらゴニョゴニョと話し合いを行った結果、「新型コロナによる乗客減や脱線事故の運休など、基本方針を立てた時とは前提条件が違い過ぎる」「大鰐線を廃止しても、全国的なドライバー不足で代替バスの確保は容易ではない」とう理由で、あっさりと両市町長はゴールポストを移動。やや問題を先送りした感のある(?)支援の継続を決めてしまったのでありました。

夜の中央弘前に佇む大鰐行きの7000系。真っ暗な土淵川と、川沿いの赤提灯が郷愁をそそる。おそらく、大鰐線を含めた弘南鉄道の次のターニングポイントは、「2020年からの10カ年計画」が折り返しを迎える2025年度末あたりになるのではないか・・・?という私の見立てなのですが。現状の大鰐線、輸送密度が400人/日ということで、国鉄末期の赤字ローカル線の存廃は「輸送密度が4,000人/日以下」が条件であったこと考えると、とんでもない輸送密度の低さである。勿論、輸送密度が4,000人切ってる路線なんて現在はいっぱいありますからそれが全てではございませんが、本数を減らし駅員を減らし設備投資も控えて極限まで合理化した大鰐線でも、いまの乗客が2倍になってようやく収支均衡になるかならないか、という状況なんだそうで・・・

現在は赤字の約8割を弘前市が負担する補助金で運行していますので、ここで津軽の中核都市である弘前市が「支援する」と言ったからには今しばらくレールは続くのでしょう。以前は「代替交通を走らせるに足る道路整備が出来ていない」というのが赤字ローカル線の廃止の除外要件だったのですけど、昨今は「バス転換しようにもドライバーの確保のメドが立たない」というのがローカル線廃止の除外要件に加わっているように思う。消極的な廃線回避というか、弘前市としては公共交通を委ねる先のないまま(おそらく投げるにしろ系列の弘南バスなんでしょうが・・・)、さりとて大鰐線は抜本的な改善策がないまま、存続と活性化の道をもう少し探って行く事になります。

終電一本前の大鰐行きに乗り込む乗客は10人程度。
お酒が絡めば電車を使うか、と言えばそうでもなく、土手町の路地には酔客相手の代行の軽自動車が目立つばかり。
終車も21時30分では、一次会で終わったお客さんくらいで、さすがに早過ぎますかねえ・・・


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