映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「オイアウエ漂流記」 荻原浩

2012年03月12日 | 本(その他)
笑えて泣ける、大人の冒険物語

オイアウエ漂流記 (新潮文庫)
荻原 浩
新潮社


                      * * * * * * * * * *

南太平洋の上空で、嵐のために小型旅客機が行方不明となります。
墜落した飛行機が流れ着いたのは無人島。
生存者は出張中のサラリーマン一行と取引先の御曹司、
新婚旅行中の夫婦、
ボケかけたおじいちゃんとその孫、
そして怪しい外国人。
おまけに大きな犬一匹。
はてさて、どうなりますやら・・・と、
ありがちのシチュエーションではありますが、大変興味をそそります。


このサラリーマン一行がまたてんでんばらばらなんですよ。
いつも威張り、怒鳴りちらしているパワハラ部長。
部長にヘコヘコ威厳のない課長。
バリバリのキャリアウーマン主任は、威勢も良いけどこんな時にも化粧は落としたくない。
そして、いつも危険な役割を持たされ、こき使われてしまうのが、若き賢司くんなのでした。
語り手は次々バトンタッチしていきますが、彼の視点によるものが多いのです。


年齢、性別、性格、全くうまくバラけておりますが、
島にたどり着いた付いたばかりの彼らは、
全くこの先どうなるんだと暗澹とした気持ちになるほどに、まとまりがないのでした。
しかし、彼らにたった一つ共通なのが、
食べなければ生きていけない!ということなのです。
幸いに島には果物が豊富で、さっそく彼らの仕事は食べ物集めということになります。


南国の島とはいえ、夜は冷え込みます。
火も必需品ですが、たったひとつのライターもすぐにだめになってしまい、火を起こすにも一苦労。
しかし、そんな風にこの島で毎日を過ごすうちに、彼らは次第に変わっていきます。
てんでんばらばらだった彼らが、次第にまとまりを見せてくる。
それぞれの役割分化で暗黙の共同生活のルールが出来てくるのですね。
それぞれの個性は変わらないのですが、
皆背負っていた肩書きをはぎ取り、カドがとれて丸くなってくるような・・・。
こういう過程が実に見事に描かれています。


そして、この何もない島で原始生活をして初めて気づくことも。
先ほどの火を起こすこともそうですが、
生きるためには他の生物を殺さなければならないという厳しい現実にも直面します。
魚も豊富ですが、時にはコウモリやウミガメも狩らなければなりません。
都会人の脆弱さが身にしみます。


また、一つ涙を誘うエピソードは、犬のこと。
墜落機の機長の愛犬だったのですが、彼らと共に島にたどり着きました。
元気な小学生仁太くんになついていましたが、
はじめの頃の食糧難でそばに置けなくなり、野に放されたのです。
ところが狩りを覚えたその犬は、島で一番危険な"猛獣"と化してしまう。
セントバーナード犬を敵にまわすのは、ちと荷が重い。
意外な成り行きに、驚かされます。
実に笑えて泣ける、大人の冒険物語です。


そうそう、「オイアウエ」というのはトンガ語で
「おお」、「ああ」、「いやはや」、「えっ」、「うわっ」
・・・あらゆる喜怒哀楽を表す感嘆詞。
この本では、「がんばるぞ!」、「オイアウエ!」というような掛け声で使われますが、
実は隠されたもう一つの意味もあるのでした。
さて、彼らは最後に島を脱出できるのか、またその方法は・・・? 
是非読んで確かめてください。

私はついその後の彼らの生活を想像してしまいます。
もうサラリーマンには戻れないのではないかしらん・・・?

「オイアウエ漂流記」 荻原浩 新潮文庫
満足度★★★★☆

ヒューゴの不思議な発明

2012年03月10日 | 映画(は行)
機械の仕組みが眼の前にあって、理解の範疇にある時代



                * * * * * * * * * *

1930年代パリ。
駅の時計塔、壁の中に隠れ住む少年ヒューゴの物語です。
なぜ隠れ住んでいるかというと、彼はお父さんを亡くし、
この時計塔で時計のメンテナンスをして暮らしている叔父さんに引き取られたのですね。
けれど飲んだくれの叔父さんは、出ていったきり帰らない。
孤児と知られれば、施設に入れられてしまう。
やむなく彼は一人で時計の手入れをしながら生きていたのです。



この作品、この題名や予告編で、
子供向けのファンタジックな作品かと思っていたのですが、少し違いました。
いえ、期待は良い方へ裏切られたのです。
これはヒューゴが魔法のような発明をする冒険ファンタジーではなく、
映画の創成期への熱い思いを捧げたオマージュ作品だったのです。
ヒューゴが駅で出会った気難しいおもちゃ屋のおじいさんは、ジョルジュ・メリエス。
この方は実在の人物で、映画の創成期に活躍した方。
初の“映画監督”といってもいい。
当時の精一杯の撮影方法の工夫で、SF的作品も手がけました。
この作品中に登場する「月世界旅行」は1902年作品で、最も有名なものの一つですね。
多くの人の映画への愛がタップリと包み込まれた作品なのです。
人類初の映画作品は、蒸気機関車が駅に到着するシーン。
その映像を見て人々は思わず逃げ出したというのです。
汽車に轢かれると思ったのですね。
思えば映画の撮影技術もこのスタートラインからほんの100年ほどで、随分遠くまで来たものです。
CGや3D。
でも、何時の時代も、
映画は人々の夢や未知への憧れ、驚きや好奇心を掻き立ててきたんですねえ・・・。



少し話を戻しますが、ヒューゴは亡きお父さんから、ある機械人形を受け継ぎます。
きちんと動けばペンで文字を書くというその人形を何とか直そうと、
ヒューゴは部品を集め、修理を試みるのですが・・・。
動かすために必要な“鍵”が見つからない。
ここでちょっと、先日見た「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を思い出してしまいました。



お父さんを亡くした少年。
そのお父さんが指し示した指針。
その鍵は文字通り“鍵”。

なぜか符合してますねえ・・・。
思うに、ハリウッド的父子の確執は、父親が早く亡くなることで避けられる。
息子がまだ子供のうちなら、父親の「偉大さ」だけを見せることができるのです。
その時に父を亡くせば、父親も一人の人間で、本当は弱いものだということを知らないままでいられる。
でもそれは永遠に乗り越えられない父親像を作ってしまうかもしれませんね・・・。
両作品ともそこまでは言及していませんが。
現実にそこにいて乗り越えられないのと、永遠に仰ぎ見る手の届かない星とは違うのかもしれません。


「人間は社会の歯車の一つで、皆何らかの役に立っている」という言葉がありました。
よく、「自分は社会の歯車の一つにしか過ぎない」みたいなセリフがありますね。
でも考えてみればどんな小さな歯車でも、
それがないと、機械が機能を果たさないわけです。
社会の中で、自分の役割を知る。
それはとても大切ですね。



全体的にセピア調のトーン。
ちょっぴり「オリバー・ツイスト」なども思い起こされる、ノスタルジックな雰囲気に満ちています。
蒸気機関や大きな時計の歯車、おもちゃのゼンマイ・・・。
機械が機械としてきちんと目の前にあって、その働きがまだ「理解」の範疇にある。
そして同様に、映画の撮影の仕組みも、目の前にあって「理解」できる。
こうした時代には世の中の仕組みも、今よりはわかりやすい気もします。
そんな時代の雰囲気が、万国共通でノスタルジーをかきたてるのでしょうか・・・。


駅に集う人々もいいですね。
鉄道公安官と彼の愛犬ドーベルマンはすごくいいコンビでした。
作中彼は悪役なのですが、最後に彼の意外な面を知るというのも素敵です。



・・・というようなわけで、満足いっぱいの素晴らしい作品でした!!
決して子供向けというわけではないと思います。
私は2Dで見ましたが、3Dでなくても全然大丈夫。
だって、3Dは皆日本語吹き替えなんだもの・・・。
それはないと思うのですが・・・。

「ヒューゴ不思議な発明」
2011年/アメリカ/126分
監督:マーティン・スコセッシ
原作:ブライアン・セルズニック
出演:エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、サシャ・バロン・コーエン、ベン・キングズレー、ジュード・ロウ、レイ・ウィンストン、クリストファー・リー

世にも怪奇な物語

2012年03月09日 | 映画(や行)
心の闇を幻想的に描くオムニバス

                 * * * * * * * * * *

先日読んだ綾辻行人「奇面館の殺人」で、登場人物の女性が夜中に一人で見ていたビデオがこの作品。
文中、若干その内容にも触れられていて興味が湧いたので、さっそく見てみました。


1967年作、エドガー・アラン・ポー作品を原作とした仏・伊3人の監督によるホラー作品のオムニバス。
出演陣も豪華で、これは当時かなり話題となったと思いますが、
今見ると若干地味という印象はぬぐい去れない。
この手のオムニバスはその後いくつも作られていますし、
怪奇さを盛り上げる手法もどんどん進化していますから・・・。
しかし、やたらとおどろおどろしい描写をせず、
心の闇を幻想的に描くという、芸術的香り高い作品群であると思います。


第一部 黒馬の哭く館
監督:ロジェ・ヴァディム
出演:ジェーン・フォンダ、ピーター・フォンダ
伯爵家の後を継いだ令嬢フレデリック。
彼女は高慢で、誰もが彼女の言いなりになるのが当たり前の生活をしています。
しかし、ウィルヘルムという男だけが彼女を無視。
不思議にそんな男に心ひかれてしまうフレデリックだけれども、
無視された腹いせに彼の家に火をかけてしまいます。
ウィルヘルムは馬を助けようとして、火に呑まれあっけなくも死去。
その直後、フレデリックのもとに一頭の美しい黒馬が現れます。
その馬に憑かれたように毎日馬と過ごすようになるフレデリックでしたが・・・。
火事の時になぜかフレデリックの居間にある馬の絵を織った織物が焼け焦げてしまうのです。
黒馬はどこから来たのか? 
馬の絵のタペストリーの由来は? 
ウィルヘルムの心は? 
解説は何もありません。
ただ不思議なことが起こるというだけの・・・。
つまり、いろいろ想像の余地はあるのです。
私は3作の中ではこれが一番好きです。(馬が好きなだけ?)
海岸をゆく馬と伯爵夫人の映像が印象的。


第二部 影を殺した男
監督:ルイ・マル
出演:アラン・ドロン、ブリジット・バルドー
サディスティックでかつ狡猾なウィリアム・ウィルソンという青年がいます。
しかし、彼と同姓同名、瓜二つの男が、ときおり現れては彼の目論見を邪魔しようとする。
あるときついに怒りが爆発して、瓜二つのその男を刺し殺してしまうのですが・・・。
同姓同名で瓜二つとすれば、それはもう、彼自身の分身でしかありえないし、
このような結末は目に見えてはいるのですが・・・。
彼の殺伐とした心の奥底に、そのような自分自身をいとう気持ちが実は潜んでいたということなのかもしれません。


第三部 悪魔の首飾り
監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:テレンス・スタンプ
英俳優トビー・ダミットは役者とて一度は名声を得たのですが、
アル中となり、今は仕事もなく落ち目。
そんな彼にイタリアから映画の出演依頼があり、報酬としてフェラーリの新車をもらう。
そしてある賞の授賞式に招かれたが・・・。
幻想と現が交差する不思議な作品。

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ジェーン・フォンダ,ピーター・フォンダ,アラン・ドロン,ブリジット・バルドー,テレンス・スタンプ
エスピーオー


「世にも怪奇な物語」
1967年/フランス/121分

「信長協奏曲 6」 石井あゆみ 

2012年03月08日 | コミックス
天下に近づけば近づくほど敵は減っていくもんだと思ってたけど、そうじゃないみたい・・・

信長協奏曲 6 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
石井 あゆみ
小学館


                 * * * * * * * * * *

待ち遠しかった第6巻が出ました。
いやはや、でも、さすが動乱の時代、
さすがのサブロー信長もそう脳天気ではいられなくなってきましたね。
朝倉・浅井勢から京へ逃れた信長は、岐阜へ帰るのもままならぬ状況にありながら、なんとか帰郷を果たします。
ところがその途上、信長を銃弾が襲う。
辛くもマントに穴が開いただけで済んだのですが、いったい信長を狙うのは何者・・・?
うーん、それはもう、信長の敵はたくさんいるわけだから、なんとも言えないんだけどね。
不思議な運に守られている男でもあるわけだな、信長は。
そんな所でサブロー信長は思わずつぶやきますね。
「俺さー、天下に近付けば近付くほど敵は減っていくもんだと思ってたんだけど、
なんかそうじゃないみたいだね。
むしろその逆のような気がする…。
これじゃあ…いつまでたっても終わんないんじゃないかなー」

この言葉に、むしろ周りの部下たちはびっくり。
今までいかにも自信たっぷりだったからね。
弱音を吐く殿は殿らしくない、と皆に詰め寄られたサブローは
「あれ?いや…、弱音を吐いたつもりは…
ちょっと感想を言ってみただけなんだけど…」

すでに引き返すことができない状況を再認識し、
新たに天下取りへの決意を固めるという大事な場面となるのでした。
いやいや、サブロー信長くんも、成長したことよの~。
とはいえ、敵方浅井家に嫁いだ妹、おいっちゃんのことも気がかりです。
彼女は彼女で、兄信長と夫との仲を取り持とうと、一生懸命。
元気なおいっちゃんは好きだなあ・・・。お茶々もね!



平成人である信長サブローは、時に周りの人をはっとさせる言葉を出します。
少年蘭丸くんは、気持ちが優しくて、兄のように「立派な武将になりたい!」とはどうしても思えない。
サブローは
「いいんじゃない?べつに。
さっき自分で言ってたじゃん、人には向き不向きがあるって。
自分に向いてることすればいんじゃないの?」

と。
身分というものが固定化してきているこの時代では、なかなかない発想なのだろうな。
いや、この言葉は、今でも心にひびく場合がありますよね。
親の期待に応えて無理をする・・・なんてことは、今でも普通にあるよね・・・。



さて、信長の妻帰蝶の侍女、おゆきは実は上杉謙信の間者であったわけですが、
何やら殿様らしくない信長の分け隔てない物言いに、ちょっと心が揺れています。
ほう、フォーリン・ラブ!!
ところがこのおゆきさんが、明智光秀の素顔を見てしまうわけです!!
この展開もなかなか先が楽しみだね。
皆で津島のお祭りに行った夜の光景は、とても素晴らしかったなあ・・・。
こういう緩急の付け方で、ぐっと物語に深みが出るんだなあ。

全く目が離せない天下取り!
次号を待つ!

「信長協奏曲 6」 石井あゆみ ゲッサン少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆

戦火の馬

2012年03月06日 | 映画(さ行)
多くの人の手に守られて



                      * * * * * * * * * *

この作品、とても楽しみにしていました。
スピルバーグ監督作品だからというだけではありません。
馬が好きなんです。
競馬はやりませんけれど、馬の走る姿が、とても美しくて・・・。
もともと動物モノの作品も大好きですしね。


さて、舞台は第一次世界大戦前夜から始まります。
イギリスの農家の少年アルバートは、近くの牧場で子馬が生まれるところを目撃しました。
母馬と一緒に野をかけ成長していくその子馬に愛着を感じます。
そしてある日、父が馬の競りで無理やり買ってきたのがその馬。
しかし、サラブレットのその馬は、農耕には向きませんし、
小作でやっと食べている彼の家には、全く分不相応のものでした。
けれど、アルバートはその馬ジョーイと心を通わし、
皆には無理と言われた畑起こしまでやって見せます。
ところがそんな時、戦争が始まります。
アルバートの家はやはり生活が苦しく、ジョーイを軍馬として手放さなければならなくなります。
ジョーイは激戦下のフランスへ送られ、数奇な運命が始まるのです。



ジョーイの持ち主が転々と変わっていくのですが、皆馬を愛しています。
銃撃の下を潜りぬけ、大砲の運搬という厳しい労役に耐え・・・。
それでもジョーイが生き抜いていけたのは、やはり人の手があったから。
誰もが自分のことで精一杯という時代・状況にありながら、
それでも馬を生かし、愛したいという思いに人々は突き動かされる。
すぐに戦争に走るのが人の本質ではあるかもしれないけれど、
こうして他の生き物の命を大切に愛おしむことができるのも人間なんですよね。
イギリス、ドイツ、フランス、それぞれどの国の人達にも等しくそれはある。
言葉のない動物であるからこそ、
かえってどこの人々とも分かり合える感じです。
また、あの黒馬との友情(?)にも泣かされてしまいました。
作りすぎかもしれないけれど・・・。
いやはや、なんていいやつなんだ。ジョーイ!!


考えてみるとこの作品の登場人物たちは、皆戦争が嫌い。
アルバートのお父さんは、かつての戦争で武勲を立て勲章をもらいましたが、
そのことをちっとも自慢だとは思っていません。
むしろ悔やんでいます。
ジョーイを預かった将校にしても、本来乗馬やスケッチが好きな知的紳士。
軍からの脱走を図る兄弟や、
軍に食料を略奪されてしまう老人と孫娘。
アルバート自身、自ら志願して兵役についたのですが、それはジョーイを探すため。
いや、本当にそうなのです。
この映画だけにかかわらず、殆どの人は戦争を望んだりはしない。
それがどうして起こってしまうのか。
ジョーイの奇跡は、多くの無名の人々の戦争への呪詛が産み出したものなのかもしれません。
戦争に馬が使われたのは、この第1次大戦くらいまででしょうか。
2次大戦では、ジープや戦車が使われるようになっていますよね。
馬のためには良かったですね・・・。
人のためには良かったのかどうかわかりませんが。



ジョーイは栗毛。
額に菱形の白い星。
足元が白くて靴下を履いたよう。
美しい馬です。
撮影には決まった1頭ではなく、多くの馬がメイクをして使われたそうです。
それにしても、馬も犬と変わらないくらい、しっかり演技するものですね。
感嘆に値します。


他に、馬の活躍する作品は・・・
 シービスケット(トビー・マグワイア!)
 →オーシャン・オブ・ファイヤー(ヴィゴ・モーテンセン!!)
 →ペイルライダー(クリント・イーストウッド!!!)
どれもいいですよ(^o^)

「戦火の馬」
2012/アメリカ/147分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーバイン、エミリー・ワトソン、デビッド・シューリス、ピーター・ミュラン

フォレスト・ガンプ/一期一会

2012年03月05日 | 映画(は行)
風に流されるまま、目の前のことにただ一生懸命・・・

               * * * * * * * * * *

1995年アカデミー賞6部門受賞というこの作品、
実際あまりにもいい作品なので、ここに載せるのも「今さら・・・」なんですが、
久しぶりに見てまた感動し直したものですから・・・。


冒頭、白い一枚の羽が風に舞い、
一人の汚れたスニーカーを履いた男の足もとに落ちてきます。
これがフォレスト・ガンプその人で、
彼はその羽に気づくと大事に拾い上げて、鞄の中に持っていた絵本に挟みます。
この羽は作品ラストにまた出てくるのですが、
つまり、このように風に吹かれるまま、なすがままに生きてきた彼の人生を象徴しているのでしょう。
物語は、彼がバス停で居合わせた人に自身の半生を語るという形で進められます。


人より少し知能が劣っているガンプは、
しかしそのたぐいまれなる走力を買われて、大学のフットボールチームのスター選手となります。
次には軍隊に入り、ベトナムで傷ついた仲間を助け、勲章をもらう。
軍隊でふと始めた卓球においても、天才的なその技能で活躍。
除隊してからは、戦争で亡くなった親友の遺志を継いで、エビ漁を始めるのですがそこでも大成功。
損得勘定ではなく、人に勧められるまま、目の前のことにただ一生懸命取り組んでいるだけ。
だからこそなんでしょうね。
よい方へよい方へと道が開けいく。
しかしただ一つ、思うようにならないのが、愛する幼なじみのジェニー。
いつも他の子たちから馬鹿にされていたガンプに、
普通に親しくしてくれて、いつも二人で遊んでいた。
ガンプの人生の歩みと共に、その時々のジェニーの様子も挿入されます。
彼女は独立心旺盛な女性。
けれど何をやってもうまくいかないのです。
時々ガンプと再会し、彼の変わらぬ朴訥さ、ひたむきさに心打たれるのですが、
自分の道を見極めることの方を彼女は優先するのですね。
終盤、ガンプがついにプロポーズをしたときも、彼の元を去ってしまう。
ここのところの気持ちはすごくよくわかるんですよ。
このときのガンプはもうすっかり生活も安定していて、結婚すれば間違いなく幸せになると思える。
けれどジェニーはただ彼の優しさにすがって生きていくことに罪悪感を覚えるのでしょう。
自分では何もできていないのに・・・と。
いかにも自立したジェニーの行動に、納得できます。


そしてもう一人。ガンプに運命を変えられた人物が、軍隊の上官であるダン中尉。
彼は戦場で負傷したところをガンプに救われたのですが、両足を失ってしまいました。
絶望した彼は「あそこで、名誉の戦死をするはずだったのに、おまえに運命を変えられてしまった」
と、ガンプをなじるのです。
・・・けれど彼もガンプと共にいる内に、次第に生きる意欲を取り戻していきます。
ひたすらに駆け抜けていくガンプのさざ波が波紋を広げ、
周りの人たちに大きく影響を及ぼしていく。


30年ほどに及ぶアメリカの移り変わる風俗や文化。
それらを挿入し変転する人生を小気味よく映し出してくれました。
当時ではめざましい技術だったと思いますが、
ケネディ大統領やジョン・レノンとの“共演”シーンなどもあり、そんなところでも楽しめます。


私が笑ってしまったのは、ガンプの戦友であり親友である“ババ”。
彼はいつもいつも家業のエビ漁の話をし続けます。
頭の中はそれしかない。
でもガンプは、ただただ黙って聞いていますね。
そしてまあ、なんと彼の律儀なこと。

ユーモアに満ちていて、そのミラクルな生き様に驚かされ、
そしてまた彼を取り巻く人々の人生も鮮烈。
どこを切り取っても感銘です。

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トム・ハンクス,ゲイリー・シニーズ,サリー・フィールド,ロビン・ライト,ミケルティ・ウィリアムソン
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン


「フォレスト・ガンプ/一期一会」
1994年/アメリカ/144分
監督:ロバート・ゼメキス
出演:トム・ハンクス、サリー・フィールド、ロビン・ライト、ゲイリー・シニーズ

「二流小説家」 デイヴィッド・ゴードン 

2012年03月04日 | 本(ミステリ)
ミステリにおいても、心情においても、トクマル!!

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
青木千鶴
早川書房


               * * * * * * * * * *

ちょっと見た目が地味なこの本なのですが、
このミステリがすごい! 2012年版海外編
週刊文春ミステリーベスト10 2011年海外部門
ミステリが読みたい! 2012年版海外編
これらですべて第1位、三冠に達した輝かしい作品なのであります。
多くの人が押す作品にはそれなりの力があるので、
未体験の著者に挑戦するときには、こういう賞を参考にするのは悪くないですよね。


さて今作は、パッとしない中年作家ハリー・ブロックが主人公。
「二流小説家」とは彼自身が自戒を込めてそのように自称しているわけです。
彼は、ポルノやミステリ、SF、ヴァンパイア小説、それぞれ別のペンネームで執筆。
どれもベストセラーには程遠いけれど、なんとかそれで食いつないでいるといった風です。
そんな彼のところへ、かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼から告白本の執筆の依頼が来ます。
刑務所で服役中のダリアン・クレイは、ハリーの書くポルノ小説のファンだったのですね・・・。
あまり気が進まないながらも、この話は悪くない。
事件の真相を彼から聴きだして本を書くことができれば、
ベストセラー間違いなし。
名前を売るチャンス!!
ところがダリアンは、ハリーにとんでもない条件を出すのです。
ダリアンにファンレターをよこす女性に会って、彼女が登場するポルノ小説を書いて欲しいと。
殺人犯にファンレターを書くなどと、その心理は想像もつきませんが、
そのような暗い欲望にしか自分の生を感じ取れない人というのは実際いるものなのでしょう・・・。
やむなくハリーは3人の女性に会いに行くのですが、
ところがそこで予想もしない展開が!!


思いがけない真犯人という所ではピカイチでありながら、
さらにまた一ひねりありまして、ミステリとして秀逸です。
大詰めにはアクションも。
そしてまた、全体に漂う雰囲気がなんともいえずいい。
うまく表現できないのですが、
そうですね、しいて言えばハリーの人柄なのかな。
二流小説家というくらいで、つまりは負け犬人生。
女子高生クレアに仕事を仕切ってもらったりして、
ちょっぴり情けないところもあるのですが・・・。
でも最後の所で、そのクレアがこんなことを手紙に書いてきます。

「あなたにはわたしなんて必要ないわね。
本当のあなたは強い人だから。
なのにわたしが必要なふりをずっとしていてくれてありがとう。」


本当は詩人になりたくて、しかし夢はかなわず、恋人には逃げられ・・・
様々な葛藤を経ながら生きている、ちゃんとした"大人"を感じるのです。
正義感でガチガチではなく、人のほの暗い部分もしっかり理解している。
さりとてニヒルでもなく、退廃的でもない。
そしてまた自分のすべきことに忠実。
これがまたできそうでできないんですよね・・・。
こんなふうに、しっかりとバランスを持って生きてるって感じが、
身近で安心できて、大好きです。


また、この猟奇殺人犯とされているダリアンの描写がまたすごいのですよ。
人物像も、普通のようでいてどこかやはり壊れた感じ。
決して凶暴ではなく、ラストの「告白」部分は哲学的でさえあります。
そしてその犯行は、ただグロテスクなのではなくて、奇妙な美意識で彩られている・・・。
そんなことに美を見出してしまうことにまた、ハリーは罪深さを覚えたりもするのですが。


殺人=悪=醜悪
そういう図式から離れてある、不思議に物悲しいストーリー。
読後の満足感は半端ではありません。


「二流小説家」 デイビッド・ゴードン 青木千鶴訳 ハヤカワポケットミステリ
満足度★★★★★★!

テルマ&ルイーズ

2012年03月02日 | 映画(た行)
がんじがらめの“社会”からの開放

              * * * * * * * * * *

親友同士の平凡な主婦テルマ(ジーナ・デイビス)と
ウエイトレス、ルイーズ(スーザン・サランドン)のロード・ムービー。
しかしその旅は決してお気楽なものではなく、犯罪がらみの逃走劇。
アメリカン・ニューシネマを思い起こしますが、時代はもっと新しい。


妻を女中代わりくらいにしか思っていない夫の元を離れたテルマは、
開放感ですっかりハイテンション。
しかし、楽しくつきあっていたはずの行きずりの男にレイプされかけ、
逆上したルイーズが彼を射殺してしまいます。
そこから二人の逃走が始まるのです。
お金がなくなったり、警官に尋問されたり・・・
目先のピンチから逃れるために、また新たな犯行に手を染めてしまい、
雪だるま式に膨らんでいく罪。
しかし、この破滅に向かう二人に感じるのは、悲壮感や哀れみではなく、なぜか壮快感。
というのもこの二人、
日頃、男性社会の中で自分らしく生きることができていないと思われるのですね。
自分を縛り付けようとする夫や社会。
そういうものに対しての反逆という意味合いが感じられるからなのかもしれません。
そしてそれはまた、「女性」性に限らず、
あらゆる制度にがんじがらめの社会の中で人間性を剥奪されている「私たち」の解放でもある。
深夜、アメリカの広大な荒野のど真ん中で、
車を止めてふとその光景に見入っているルイーズの姿に、
そんなことが思い起こされました。


テルマとルイーズの関係性も面白いのです。
どちらかと言えばルイーズの方が積極的で行動的。
おとなしいテルマを引っ張るのがルイーズの役目。
そんな風なのですが、あるところからそれが逆転します。
最後には一心同体となり突っ走っていく。
・・・いずれにしても女は強い!と言うことでしょうか。


途中で登場するヒッチハイクの青年が、なんとまだ駆け出しの若々しいブラッド・ピット!
一見真面目な学生なのですが、
実はとんでもない、食えないヤツなので、要注意ですよ!
しかし、そんな役はいかにもブラピらしくて、笑っちゃいます。


さすが、リドリー・スコット監督作品、名作です。

テルマ&ルイーズ (スペシャル・エディション) [DVD]
スーザン・サランドン,ジーナ・デイビス,マイケル・マドセン,ブラッド・ピット
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


テルマ&ルイーズ
1991年/アメリカ/128分
監督:リドリー・スコット
出演:スーザン・サランドン、ジーナ・デイビス、ハーベイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピット

モールス

2012年03月01日 | 映画(ま行)
200年の孤独な心が求めるもの



                    * * * * * * * * * *


スウェーデン作品「ぼくのエリ200歳の少女」のリメイクです。
中身はほとんど変わっていないので、ストーリーはこちらを参照ください。

→「ぼくのエリ200歳の少女」



凍てつく冬を舞台に繰り広げられる静謐なホラー。
元作品のその雰囲気はきっちり守られています。
孤独な少年オーウェンとヴァンパイアの少女アビー、
配役がまさにはまっています。
オーウェン役のコディ・スミット=マクフィーは、
「ザ・ロード」でヴィゴ・モーテンセンと共に世界崩壊後の旅をした少年。
なるほど、あれも名作でしたねえ・・・。
一方、アビー役のクロエ・グレース・モレッツは、
キック・アスの元気な女の子じゃありませんか!
双方まだ若年ながら、頼もしい俳優であります。
繊細な少年少女の心を見事に演じてくれました。
・・・しかし、思うのですがアビーは今作では200歳とまできっちり触れられていませんが、
かなりの年月を生きているのに間違いない。
とすれば、姿は少女だけれど、精神はもっと老成しているのではないかと思ったりもします。
あれ?十分老成していましたっけ?
・・・よくわかりません。
心も年をとらないのかも・・・。



今作の原題は”Let Me In”つまり、私を中に入れて。
アビーは窓の外やドアの外からオーウェンにささやきかけます。
というのも、ヴァンパイアは相手の許しを得なければ、その人の部屋に立ち入ることができないのです。
私たちの中にもそうした結界を持つ力があるというのも、
ちょっと興味深いですね。
そういえばオーウェンのお母さんは、子供には無関心だけれど、
いつも食事のまえなどに熱心にお祈りをしています。
そうしたものが余計に、アビーがこの家に立ち入ることを難しくしているような気もします。



さて、ハリウッド版リメイク作品を見るといつも思うのですが、
元作品はそれだけで十分完成されていて、すばらしい味が出ているのに、
なんでわざわざリメイクするのか、と。
よくわかりませんが、つまりはアメリカ人は字幕が嫌いなのかもしれません。
吹き替えという手もあると思うんですけどね。
私が洋画に対して愛着を感じているほどには、
アメリカの方々は外国語の作品に愛着がないのかもしれない・・・。
よいオリジナルの脚本が足りないという事情はありそうですが。

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クロエ・グレース・モレッツ,コディ・スミット=マクフィー,リチャード・ジェンキンス,イライアス・コティーズ
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監督:マット・リーブス
出演:コディ・スミット=マクフィー、クロエ・グレース・モレッツ、イライアス・コティーズ、リチャード・ジェンキンス