映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「紅蓮の雪」遠田潤子

2022年03月09日 | 本(その他)

因縁の物語

 

 

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伊吹の双子の姉・朱里は20歳の誕生日を向かえた日、
なんの前触れもなく自殺した。
朱里の遺品の中から大衆演劇「鉢木座」の半券が見つかり、
それが死ぬ前の最後の足取りであることを知った伊吹は、
少しでも真相に迫るべく一座の公演に行った。
公演後、座長に詰め寄る伊吹の姿を見た若座長の慈丹は、
その容姿を見初め、入団を強く進めた。
伊吹は何か手がかりが掴めるのではと入団を決意し、
以降、訓練と舞台に追われながらも、「女形」としての人気も得始めていた。
そんなある日、ひょんなことから両親と鉢木座との繋がりが露見することに。
それは鉢木座の過去に秘められた禁断の事実だった……。
血脈に刻まれた因縁、人間の最果てと再生を描いた問題作。

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本作のメイン舞台は、大衆演劇。
旅芝居、ドサ回り・・・と、つまりはそういう言葉でイメージする旅の一座が舞台となります。
演目は時代劇ばかりではなくて歌や踊りもある、つまりはショーなんですね。
イケメンのおにいさんの妖艶な白塗りの化粧姿に、おばちゃまたちの黄色い声援が飛ぶ。
私は実際には見たことないですけど。

 

主人公伊吹は、そんな世界にはまるで縁がなかったのですが、
ある時、双子の姉が自殺。
その姉が亡くなる直前に「鉢木座」の演劇を見に来ていたことを知り、
気になって見に行くのです。
そこで若座長の滋丹にほとんど強引にスカウトされて、この一座に加わることに。

 

さてこの伊吹は大きな問題を抱えていて、それは人とふれあうことができないこと。
交流、という意味ではなく、人と体を密接したり実際に触れたりすることができない。
触られるとひどい緊張感や嫌悪感に見舞われてしまいます。
それができるのは双子の姉とだけだったのですが、
その姉も亡くなってしまいました・・・。
このことはどうも彼の家庭に問題があったようで、
端からはおしどり夫婦のように見られていた美しい父母に、
自分たち双子は全く愛情を受けたことがない、
父に至っては言葉をかけてくれたこともない・・・。

旅の一座の一員として、様々なことを学び、人々と交流しながら成長していく伊吹。
そして次第に解き明かされていく彼の過去。
そして父母とこの一座との関わり・・・。
そこには最も根源的なある秘密が隠されていた・・・。

 

なるほど~、この世界感に圧倒されます。
浸ってしまう一作。

図書館蔵書にて

「紅蓮の雪」遠田潤子 集英社

満足度★★★★☆

 



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