映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヴィヨンの妻 / 桜桃とタンポポ

2009年10月22日 | 映画(あ行)
強くしなやか、誠実で美しい・・・タンポポのような人

           * * * * * * * *

今年は太宰治生誕100年だそうで、
またいろいろ話題になっているようですね。
この作品も、太宰同名作品の映画化。
ヴィヨンというのは、フランソワ・ヴィヨン、
中世末期の近代詩の先駆者といわれる詩人。
無頼・放蕩を尽くした人だそうで、
そのような人物、大谷をたとえています。
つまり、太宰本人のことでもありますね。
題名の通り、主人公はその大谷ではなくて、その妻の方。
小説の方では妻本人が語る形で書かれています。


大谷は、作家として世間に注目されているけれども、
生きることに苦しみ、酒や女に溺れる毎日。
家にはお金を入れず、何日も帰ってこなかったりする。
妻、佐知は夫が踏み倒したツケをはらうために、
その小料理屋で働き始めます。


夫は自分勝手で家庭を省みず、お金があれば全て飲んでしまう。
よその女と遊び放題。
めったに帰ってこない・・・。
その妻、とくれば普通はもっとどんより沈んでいるか、
怒りくるっているかではないでしょうか。
ところがこの佐知は違う。
貧乏のどん底にありながら、全てありのままに受け入れ、
なんだかあっけらかんとしている。
絶望せず、しなやかで強い。
また決して夫を憎んでもいない。
それが、自然体なのがすごいと思うんですよね。
松たか子のやや天然っぽいところが、
そのイメージとまた素晴らしくマッチしているのです。
店で酔っ払い客の相手もさらりとこなし、チップをもらって稼ぎもできる。
こんな生活を彼女はちっとも惨めだと思っていないし、
自ら「もっと早くこうすればよかった」などという。

一方大谷は、
「男には不幸だけがあるのです。
いつも恐怖と戦ってばかりいるのです」
などとうそぶき、相変わらず生活が破綻している。
佐知はそんな夫を、まるでできの悪い子のようにそのまま受け入れる。
・・・なかなかこんな風にはできませんよね。
今なら即離婚か。
とはいえ、最後の方で
すれ違う二人の女。
佐知と大谷の愛人、秋子。
火花が散りましたね。

昭和20年代はじめ。
まだまだ女性の権利など不確かですが、
だからこそ、こんな風に強くしなやかな女性が
今よりもっとたくさんいたのだろうな・・・と思えてしまいます。

華やかではないけれど、強く誠実・・・、
そんなイメージで佐知を“たんぽぽ”にたとえていますね。
おっと、なんだか、私がたんぽぽを自称するのが恥ずかしくなってしまうな。
ま、私は咲き終わった綿毛のたんぽぽのほうです・・・。


さて、この大谷を演じる浅野忠信ですが、これがまたイメージ近いですね。
言うことはキザで破滅的。
全く、どうにもならない酒飲みで、女たらし。
しかし、なぜか憎めない。
普段の語りはよほど静かで言葉使いもていねい。
いかにも育ちがよさそうなんだけど・・・。
戦後まもなく、まだどこもかしこも貧しかったであろう日本。
そんな光景がしっかりと刻み込まれていました。
出演陣も豪華。
雰囲気のある作品です。
太宰治ファンでも、そうでなくても、ぜんぜん大丈夫。

2009年/日本/114分
監督:根岸吉太郎
出演:松たか子、浅野忠信、室井滋、伊武雅刀、広末涼子、妻夫木聡、堤真一



ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~(予告) 松たか子 浅野忠信 妻夫木聡




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
懐深い (de-nory)
2009-10-23 12:32:01
たんぽぽさん。こんにちは。
やはり、タンポポは女性のイメージなのでしょうね。
十分たんぽぽさんも、タンポポの印象ですよ。
(なんか、すごい文だなー。)

佐知が普通じゃないくらい懐深い人なのでしょうね。だから、こんなとんでもない男が居られるのかも。
あまりにも現実的ではないのだけれど、人間的現実性を感じてしまう不思議な作品です。
強くなりすぎて (たんぽぽ)
2009-10-23 20:39:48
>de-noryさま
懐深い。
いい表現ですね。
それを言うと、今時こういう感じの人って少ないような気がするのです・・・。
女性が強くなりすぎちゃったのでしょうね。
女性の権利・自由。そういうのが前面に出るので、懐が深く育つヒマがありません。
・・・だからといって、昔に戻りたいとも思いませんが。
今は失われたからこそ、美しいのでしょうか。

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