映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「はじまりの歌をさがす旅」 川端裕人

2009年09月18日 | 本(その他)
はじまりの歌をさがす旅 (角川文庫)
川端 裕人
角川書店(角川グループパブリッシング)

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川端裕人さんといえば、やはり冒険小説ですね。
この物語は、広大なオーストラリアの砂漠の冒険の物語。
音楽活動に行き詰まりを感じていたハヤトは、
写真でしかしらない曽祖父に関連する謎の旅に招待され、
オーストラリアに旅立ちます。
ところがそこで、いきなり身ぐるみはがされ、
砂漠の真ん中に放り出されてしまう。
さあ、砂漠のサバイバルの始まり・・・。

ハヤトの曽祖父、和島洋は
若い頃にオーストラリアへ渡ったまま、日本には帰ってこなかった人です。
だから彼の奥さんなどは、ひどく彼を恨んでいたらしい。
しかしハヤトはそんな曽祖父にひそかにあこがれていたんですね。
このたび、その曽祖父が亡くなり、
旅のゲームの勝者が残された遺産を継ぐことができるというのです。


このストーリーを読み解くためには、オーストラリアの原住民、
アボリジニについての知識が不可欠です。
・・・う~ン、ちょっとむずかしい。
私も、よく知っているわけではありません。
ただ、『裸足の2600マイル』という映画がありましたね。
白人とアボリジニの混血の子供達が強制的に親から引き離され、
白人としての教育を受けさせられた・・・
そういう歴史問題は、とても印象深い。

このワジマは、アボリジニの社会に溶け込み、
アボリジニと共に生きてきたのです。
時には子供達の収容所を襲い、子供達を救い出す旅をして・・・。
だからワジマはアボリジニの中ではヒーローです。
しかし、問題はワジマが行く先々でタネを撒き散らしたこと。
子供を作りまくって、今ではその子孫が数千人・・・、
というのも、実に壮大ですね。
ここまでくるともう、浮気の範疇では語れない。
偉業とも言うべきか。

さて、長い砂漠の旅が終わった・・・と思っても、
まだ物語の半分しか進んでいません。
この先どうなるの?・・・と思ったら、
今度はアボリジニの独立国家を設立しようという騒ぎに巻き込まれるのです。
・・というか、もともとそれはワジマの悲願でもあり、
そもそも、この旅の目的でもありました。
オーストラリアの鉱山で取れるもの。
それはウラニウムなんです。
それを利用しようという、ちょっと怖い話になっていきますよ。

読んでいてはがゆいのは、
ハヤトやリサの歌のシーンがたっぷりあるのに、
うまくイメージできないところ。
アボリジニの歌がどんなものか、良くわからないので・・・。
この辺は、本当の音で、ぜひ聞きたいところです。
多分、とても朴訥でシンプルで物悲しい・・・
そういうものなのだろうなあ・・・と。
アボリジニは文字を持たず、歌で記録を残したんです。
だから彼らも、新しいアボリジニの歌を作る。

そういえば、アボリジニの楽器、ディジリドゥも作品中に出てくるのですが、
これなども、私は全然知らなかったのです。
ところが、たまたま、先日「ブラスト」のコンサートに行ったら、
この楽器が出てきました!
なるほど。
かろうじて、この楽器だけはイメージがつかめました。

全編を通して、ハヤトは自分にとっての歌の意味を取り戻してゆきます。
壮大で、ソウルにあふれた物語を堪能しました。

満足度★★★☆☆・・・というか3.5。


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