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「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」奈倉有里

2024年03月29日 | 本(その他)

ロシア留学記

 

 

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今、ロシアはどうなっているのか。
高校卒業後、単身ロシアに渡り、
日本人として初めてロシア国立ゴーリキー文学大学を卒業した筆者が、
テロ・貧富・宗教により分断が進み、
状況が激変していくロシアのリアルを活写する。

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先に少し紹介させていただいた奈倉有里さんですが、
あの、「同士少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬さんの姉君でもあります。
本巻は丸ごとその奈倉有里さんのロシア留学記となっています。

 

彼女は2002年、高校を卒業後、単身ロシアに渡ります。
ペテルブルグの語学学校→モスクワ大学予備科→ロシア国立ゴーリキー文学大学
と道を進み、2008年に帰国後、東京大学大学院修士課程へ。
その、ロシアでの様々な出来事が綴られています。

 

なんといっても一番に感じるのは、有里さんが「学ぶ」ことに恐ろしく貪欲で、
そして楽しんでいること。
そのためには、見知らぬ地での苦労も何でもないと、まさに感じていたようです。

先に彼女の講演を聴いたことがあって、その時に、
日本の高校時代自分は回りからちょっと浮いていた。
(そりゃ、トルストイを熱愛する女子高生なんて、
 話の合う友人はいそうにない・・・。)
それがロシアの文学大学では、まさに周囲は似たような人たちばかり。
自分は水を得た魚のようだった・・・と。

こんなにも学ぶことに熱意があって、そして楽しむことができるというのは、
まさに才能というほかないのでは・・・? 

そしてその対象がロシア文学というのが、特に日本ではめずらしいということもあって、
実質おとなしめの方なのですが、
その唯一無二の存在感に感嘆するばかりでした・・・。

 

彼女は文学大学のアントーノフ先生に特に傾倒していて、
そのいきさつも詳しく描かれているのですが、
それは次第に暗くつらい流れになっていきます。
彼女は先生に対する感情を極力冷静に言葉を選んで記述してあります。
そこの所は下世話な想像はしないで、
その文面通りだけに受け取ることにしましょう・・・。

 

そして、終盤にはロシアの変遷についてのことが述べられています。
彼女がロシアにいた2002年から2008年の間だけでも、
比較的自由のあった大学内の雰囲気が、
みるみると独裁国家的な支配に飲み込まれていることが感じられたようです。

そして、本巻は2021年10月に刊行されたものですが、
その時すでにウクライナのクリミア地方がロシアの侵攻を受け、
東部も危うい状況になっていることが記述されています。

ロシア文学を愛する彼女にとって、
今のロシアの状況は歯がゆくてならないものでありましょう・・・。

「分断する」言葉ではなく、「つなぐ」言葉を求めて。
そんな彼女の言葉を、今は祈りに近い気持ちで繰り返すほかありません。

 

<図書館蔵書にて>

「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」奈倉有里 イーストプレス

満足度★★★★☆



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