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スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話

2020年11月13日 | 映画(さ行)

誰もしようとしなかった「正義」

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自閉症児をケアする施設「正義の声」を経営するブリュノ(バンサン・カッセル)。
他の施設などで見放された子どもたちも断らず受け入れています。
また、ブリュノの友人マリク(レダ・カティブ)は、
ドロップアウトした若者たちをその施設の補助員として養成する
「寄港」という団体を立ち上げています。
この施設にはひっきりなしに入所希望の依頼があり、ケアする要員も不足気味。
ブリュノはいつもてんてこ舞いで仕事しているのです。
しかし、無認可であり、赤字経営のこの「正義の声」に、
政府の監査が入ることになり、施設閉鎖の危機に迫られます・・・。

 

自閉症も重度になると暴力を振るったり自傷行為が見られたり・・・、
通常の施設では受け入れられないというのもわかります。
そのため家族は困り果てて、家に閉じ込めっきりにしたりするのです。
そしてまた、仮に施設に入ることができたとしても、薬漬けで無気力にさせられたり・・・、
いずれにしても人間らしい扱いは期待できません。
「正義の声」では、極力通常の人間らしい生活を
子どもたちが送ることができるよう、心を砕いている。
ただただ、忍耐あるのみ、ですね。

 

そして、「寄港」との連携がまた、素晴らしい。
ろくな仕事に就けずに、自己有用感を持てないでいる若者たちに、
やる気と仕事を持たせようというのです。
やる気がなくて、集合時間にも平気で遅刻する若者が、
自閉症児と接するうちに、何か大切なものを取り戻していくようです。

 

作中でも話がありましたが、
自閉症児も子どものうちはまだかわいいので、周囲の理解も得られやすい。
けれど、大人になってからが問題。

ブリュノが以前からずっと関わっている青年・ジョセフ。
彼をなんとか仕事に就かせたいとブリュノは思っているのです。
ジョセフは施設をとっくに出ているのですが、未だに母親と連携しながらブリュノも面倒を見ています。
ジョセフは電車に乗るとすぐに非常ベルを押してしまって、大騒ぎを引き起こします。
これでは仕事に就こうにも、まず職場まで通えません。
とにかくベルを押してはダメと言い聞かせて電車に乗る期間を一駅ずつ延ばしていくのですが・・・。
そしてまた、彼を受け入れてくれそうな職場に連絡をしまくって、
ようやく受け入れてもらうところを見つけますが・・・。

 

おそらくこんなことはあまたの例のうちのたった一つなのでしょうね。
世間の理解がもっと進めばいいなと心底思い、
そしてこのようなことに心血を注ぐ人がいることの幸せを感じたのでした。
副題の通り、実話です。
素晴らしい!!

ちなみに、ブリュノはユダヤ人、マリクはイスラム教徒。
補助職員として学ぶ若者たちも様々な人種が入り乱れています。
こんなグローバルでボーダーレスの社会もいいですね。

 

<シアターキノにて>

「スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話」

2019年/フランス/114分

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ

出演:バンサン・カッセル、レダ・カティブ、エレーヌ・バンサン、ブライアン・ミヤルンダマ

 

満足度★★★★☆

 

 



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