映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

PERFECT DAYS

2024年03月19日 | 映画(は行)

単調な毎日にあふれるドラマ

* * * * * * * * * * * *

アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされていましたが、惜しくも受賞を逃しました。
でも、ドイツ出身の巨匠・ヴィム・ベンダース監督×役所広司となれば、
見逃すわけに行きません。

東京、渋谷で公園のトイレ清掃員として働く平山(役所広司)。
淡々とした同じような毎日。
でも彼にとっては常に新鮮な小さな喜びに満ちています・・・。

役所広司さん演じる平山は、一人暮らし。
朝目を覚まして、歯を磨き、植木に水をやって出かけます。
公園のトイレを何カ所も回り、丁寧にそうじをします。
昼食は神社の境内のベンチでサンドイッチ。

仕事の後輩・タカシ(柄本時生)の適当な仕事ぶりが気になるけれど、
特に叱ったりはしない。
とにかく寡黙なのです。

仕事が終われば銭湯で汗を流して、
地下街の飲み屋で軽く飲んで食事とする。
帰って就寝前には読書のひととき・・・。

およそこんなことの繰り返しの毎日です。

無口だからといって決していつも機嫌が悪いわけではない。
彼の楽しみはカセットテープ(!)で、音楽を聴くこと。
フィルムカメラで、木漏れ日を撮ること。
そんなささやかな楽しみもあるのです。
同じような毎日だけれど、木々の葉の織りなす光と影の揺らめきのように
一つとして同じものはない。

まさしく、生きていくって、そういうことなのかも・・・。

渋谷区内17カ所の公共トイレを世界的な建築家やクリエイターが改修するという
THE TOKYO TOILETプロジェクト。
これにベンダース監督が賛同し、同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描かれています。
だから登場するトイレは、狭くて暗くてキタナイという公園のトイレのイメージではなく、
どこも個性的でオシャレな外観。
なかでも透明なガラス張りで、鍵をかけると曇りガラスになって中が見えなくなる、
などと言うどこぞのオフィスみたいなトイレには驚かされました。
ちょっと、どうやって使えば良いのか、こまってしまいそうではあります・・・。
また、中の便器等も新しくキレイなので、これは掃除のしがいがありそう。
こんな風に、成果が目で見てわかる仕事も悪くないなあ・・・と思ったりします。

そんな平山の変化に乏しい毎日ですが、ある日、若い女の子が訪ねて来ます。
なんと姪っ子が叔父さんを頼りに家出してきたのでした。
そんなことから、平山の過去がほんのちょっぴりだけのぞかれたりもして。

 

カセットテープに、フィルムカメラ。
古い時代の物語かと思いきや、スカイツリーのある立派な現在の物語。
なんともアナログですが、今逆に若い子たちに受けていたりするわけで。

単調な毎日。
端から見れば、さえない仕事のさえないオジサン。
でも、そんな人の日々もドラマです。
私たち1人1人の暮らしも、本当はたくさんのドラマに満ちているのかも知れません。

ステキな作品でした!

 

<TOHOシネマズすすきのにて>

「PERFECT DAYS」

2023年/日本/124分

監督:ヴィム・ベンダース

脚本:ヴィム・ベンダース、高崎卓馬

出演:役所広司、柄本時生、アオイヤマダ、中野有紗、石川さゆり、田中泯、三浦友和

 

アナログ度★★★★★

日常度★★★★★

満足度★★★★★