映画と本の『たんぽぽ館』

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「日本語教室」 井上ひさし 

2011年09月19日 | 本(解説)
言葉は常に乱れているけれど・・・

日本語教室 (新潮新書)
井上 ひさし
新潮社


               * * * * * * * *

この本は、井上ひさしさんが、2001年10月から母校上智大学で
4回にわたって行われた講演の記録です。
大変に分かりやすく、面白い、実際に聞いてみたかったな、
と思う内容になっています。


第一講は、「日本語はいまどうなっているのか」
言葉は常に乱れており、また、言葉は多数決でもあるので、しかたのないこと。
まあ、それも認めよう、といいながら、
それでも気になるいくつかの点を挙げています。
あまりにも簡単に外来語をつかってしまうこと。
たとえばリフォームと単純に言っても日本語だと
再生、改良、仕立て直し、改築、増築、改装・・・いろいろな言い方があって、
それぞれ微妙に意味が違います。
それをひとまとめに「リフォーム」で済ませてしまうようになったら、
日本語にとっては悲劇的な状況を招くだろうと。
いま盛んにグローバリゼーションというけれど、
実はアメリカ化を指している。
アメリカの価値が一番正しいというのはどうなのか・・・井上氏は愁いています。


第二講「日本語はどうつくられたのか」
日本語の発音の原型は、原縄文語。
南の方から来ているらしい、といいます。
一方、文法はトルコ語と日本語がよく似ているということから
ウラル山脈の当たりからシベリアを通ってやって来たのではないか。
そして、今の東北弁こそが原縄文語なのでは、
と井上氏は言っています。
つまり、中央部で使われた言葉が地方へ広がっていき、定着してそのまま残る。
その間に中央部の言葉はどんどん変わって行くけれど、
その新しい情報はなかなか地方まで伝わらない。
実際、東北弁によく似た言葉が、出雲地方や沖縄に残っているのだとか。
その昔の中央の言語が東北弁。
何だか楽しいですね。
また、元来のやまとことばと中国から来た漢字の使い分け、
そして、欧米から来た外国語のカタカナ。
これら微妙な使い分けを私たちは無意識にしているということで、
なかなかすごいですね。

また、今の標準語は明治政府が作った。
当時地方の人々は、当たり前にその土地土地の方言を使っていたわけですが、
軍隊で命令が通じないのでは非常に困る。
それで促成で標準語がつくられたとのこと。
東北の指揮官が「走りはんばとびはずめ」といっても
九州の兵隊は「あの人、なんば言いよとやろ」となる・・・。
よく“タイムスリップで江戸時代へ行ってしまった”などという小説やコミックで、
きちんと会話が成立していますが、
私はこれには非常に疑問を感じます。
今の言葉と当時の言葉、そう簡単には通じないのではないかなあ・・・。


以下
第三講「日本語はどのように話されるのか」
第四講「日本語はどのように表現されるのか」と、続きます。

私は、中学校で日本語の文法を習って、驚いてしまったことがあります。
普段、何も考えずにつかっている言葉に法則があったなんて!!
でも、これは最初に法則があって言葉ができたのではなくて、
最初に言葉があって、それを調べたらなんと、法則があったということなのですよね。
だから言葉は面白い。
いろいろ、目から鱗の話しも交えながら、
井上氏の“世界の中の日本”感もうかがえて、
大変貴重な本であると思います。


「日本語教室」井上ひさし 新潮新書
満足度★★★★☆