MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『エル ELLE』

2017-09-15 00:03:01 | goo映画レビュー

原題:『Elle』
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
脚本:デヴィッド・バーク
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
出演:イザベル・ユペール/ローラン・ラフィット/アンヌ・コンシニ/シャルル・ベルリング/ジョナ・ブロケ
2016年/フランス・ドイツ・ベルギー

「本物」の愛情が「歪んで」しまう原因について

 2014年のクリスマス前、主人公で、おそらく48歳であろうミシェル・ルブランはマスクをした黒ずくめの男に自宅に押し入られて強姦されてしまうのだが、その後警察に連絡することもなく訪ねてきた息子のヴァンサンと何事もなかったかのように普通に対応している理由は、彼女が10歳の頃に遭遇した実の父親による隣人たちの大量殺戮という経験があり、警察に対して不信感も持っていたからであろう。
 しかしここでは既に語られ尽くしたミシェルのことよりも周囲の人物について語ってみたい。ミシェルの母親のアイリーン・ルブランは若い恋人を見つけて結婚宣言するのであるが、その直後に脳梗塞で亡くなってしまう。ミシェルの元夫であるリシャルト・カサマヨウも若い娘と交際していたのであるが、小説家であるリシャルトの作品を知らなかったことに幻滅して別れてしまう。76歳になる父親は仮釈放を認められずさらに10年間拘留されることになり、ミシェルは亡くなった母親の代わりに年明けに面会に行くのであるが、娘が面会に来ることを知った父親は娘が来る直前に自殺してしまう。ミシェルには親友でビジネスパートナーのアンナがいるのであるが、ミシェルはアンナの夫のロベールと肉体関係を持ってしまう。隣人で敬虔なクリスチャンであるレベッカも夫と死別してしまうのである。
 このようにミシェルの周囲で恋愛が成就している幸福な人間はいないのであるが、「歪んだ」恋愛ならばミシェルと彼女の隣人でレベッカの夫であるパトリックがサディスティックな関係を持つ。あるいはミシェルの息子であるヴァンサンが明らかに肌の色が違う赤ん坊を産んだ妻のジョシーと別れない理由も妻からの虐待から赤ん坊を守るという愛情によるものであるし、ラストでミシェルとアンナが再び友情を育むのも「歪んだ」ものと言えるだろう。つまり愛情に「本物」があるとするならば、それは必然的に「歪んだ」ものであるという厳しくもおかしな事実が本作が示した皮肉なのである。因みに10歳のミシェルに付けられた「Ash Girl」というあだ名は「シンデレラ」という意味である。


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