若者たち
1968年/日本
矛盾に溢れる‘兄弟愛’
総合 100点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
冒頭の食事のシーンの粗さから不穏な空気を醸し出すこの作品は、1967年の公開当初から今日に至るまで、早くから両親を失った5人兄弟の長男である佐藤太郎が中学を卒業して直ぐに設計技師として工事現場で働くことで兄弟を養い、様々な困難を乗り越えていくという絆の強い兄弟の物語として受容されていることに文句を言うつもりはない。トラック運転手をしている次郎、授業料値上げ反対の学園闘争に関わる三郎、受験生の末吉、そして食費などに関して兄弟たちに翻弄されるオリエを通して、まだ決して豊かではなかった日本社会の中で生きることの過酷さ、特に‘ピカ’と呼ばれて差別される被爆者の戸坂とオリエの関係など、もともとテレビドラマとして制作していたフジテレビが映画化の際に手を引いてしまったほど難しい問題を扱っており、その問題提起は十分に評価されるべきだとしても、この作品の価値をその程度に留めてしまうことは惜しいような気がする。
クライマックスは5人の兄弟が食事中に末吉が大学進学を諦めて働くと太郎に言い出したことから始まる大喧嘩である。その前に学歴の無いことで勤務先の上司の娘である桜井淑子に結婚を断られていた太郎は末吉の決心に納得がいかない。自分のような惨めな思いをさせないためにも太郎は末吉に大学へ行くように説得するのであるが、そんな末吉の肩を持つのが選りによって大学生の三郎であったから大喧嘩になるのだが、更に太郎を止めるのがトラック運転手の次郎で、それまで兄弟たちのために必死で働いてきたのに孤立無援の太郎は完全に袋小路に追い込まれる。太郎は兄弟の絆を大切にしようとするが、そんな太郎に三郎は「兄弟だから他人なんだ」と喝破する。兄弟なのだから助け合うことは当然のこととしても、いずれはそれぞれ家族を持って独立しなければならないのであり、太郎の理想は皮肉にも太郎の期待通りに優秀に育ってくれた三郎によって壊されてしまう。確かに兄弟愛が描かれているのではあるが、そこに潜む矛盾こそこの作品の真骨頂なのである。
1967年に公開された『若者たち』の辛辣なメッセージがどれほど多くの人たちに認識されたのか定かではないが、残念ながらその辛辣なメッセージ受け損ない、‘兄弟愛’を大切にし過ぎた若者たちによって5年後に起こされた惨劇の様子は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(若松孝二監督 2008年)で見ることができる。
小川隆音の葬儀後、息子の小川隆を演じる江守徹と佐藤三郎を演じる山本圭が子供たちが持ってきたバナナを一緒に食べるシーンは『青春残酷物語』(大島渚監督 1960年)において主人公の藤井清を演じる川津祐介がリンゴをかじるシーンのパロディだと思う。
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