MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『TAR/ター』

2023-05-18 00:53:09 | goo映画レビュー

原題:『TÁR』
監督:トッド・フィールド
脚本:トッド・フィールド
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
出演:ケイト・ブランシェット/ノエミ・メルラン/ニーナ・ホス/ゾフィー・カウアー/ジュリアン・グローヴァー/マーク・ストロング
2022年/アメリカ

クラシック界の「システム」について

 主人公のリディア・ターはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団における女性初の首席指揮者であるのみならず、エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞の4大音楽賞、いわゆる音楽家としての「グランドスラム」を成し遂げ、自伝『Tár on Tár』の出版と同時に、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団として初となるグスタフ・マーラーの交響曲第5番のライブ録音の準備もしており、まるで片手間のようにジュリアード音楽院で学生の指導まで担い、まさに音楽家としてのキャリアの頂点に君臨しているのである。
 実はリディアはゲイなのであるが、だからと言って私生活に支障をきたしているわけではなく、シャロン・グッドナウというパートナーがおり、ペトラという娘もいる(因みにリディアはクリスタ・テイラーとトラブルになっているのだが、クリスタがリディアにヴィタ・サックヴィル=ウェストの『チャレンジ(Challenge)』という小説を送っているところを見ると浮気相手だったのだと思う)。
 しかし絶好調だったリディアの人生はオルガ・メトキーナが出現したあたりから狂いだすのだが、不思議なことにリディアが抱えるトラブルはほとんどが女性との間で生じており、白人男性とは良好であるということなのである。これはリディアの問題というよりもクラシック界がそもそも白人男性によって作られていることによる弊害なのであろうが、それが問題であると果たして言えるのか? 女性を排除しながらクラシック界が成り立ってきたとは考えにくいのであり、これは白人男性的振る舞いで活躍できてしまう「システム」の問題のように思うのである。
 ところが本作はリディアの「挫折」を「劇的」には描かない。例えば、夜中にリディアが住む部屋でメトロノームを仕掛けた人も、リディアの楽譜を盗んだ人もリディア本人が積極的に探そうとすることもなく、詳細は避けるがクライマックスのリディアの行動も淡々と描かれるだけである。
 再起をかけてエージェントを介して渡った東南アジアのとある国において、リディアは改めてオーケストラの指揮者の地位を得ることができる。しかしそのオーケストラは今までのオーケストラとは微妙に違う。それはヴィデオゲーム『モンスターハンター』の音楽の演奏なのではあるが、地元の売春宿のアジア人女性の眼差しに嫌悪して思わず嘔吐してしまうところなど、そこでは白人男性によってつくられたクラシック界の「システム」がそのまま受け継がれているのではないのだろうか?
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/moviewalker/entertainment/moviewalker-1134644


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