原題:『No Escape』
監督:ジョン・エリック・ドゥードル
脚本:ジョン・エリック・ドゥードル/ドリュー・ドゥードル
撮影:レオ・アンスタン
出演:オーウェン・ウィルソン/ピアース・ブロスナン/レイク・ベル/スターリング・ジェリンズ
2015年/アメリカ
生き残るために行使する暴力について
ドワイヤー一家が無事にヴェトナムに脱出できた後、病院のベッドの上でジャックとアニーは娘のルーシーが産まれた時の状況を説明する。ルーシーは出産直後泣かなかったので、看護婦や医師がルーシーを叩き、出産の様子をカメラを回して撮影していたジャックも叩いたのだが泣かず、母親のアニーが声を挙げてようやくルーシーは泣いたというのである。
このエピソードを聞き流すことができない理由は、それまで緊張感の絶えない脱出劇を見せられていたからであり、要するに生き残るためには暴力行為はやむを得ないということなのである。この皮肉なメッセージにどのように反論していいのか考えあぐねている。ドワイヤー一家の救出を命がけで手伝ったハモンドは、かつて「007」を演じていたピアース・ブロスナンであり、ここでも自身がイギリスの情報局員であることをほのめかしているのであるが、「007」のように生き残ることなくハモンドが最期にトラックに轢かれて死んでしまうという象徴性にも西洋の理屈の限界を感じるのである。