原題:『Moonwalkers』
監督:アントワーヌ・バルドー=ジャケ
脚本:ディーン・クレイグ
撮影:グリン・スピーカエル
出演:ルパート・グリント/ロン・パールマン/ロバート・シーハン/エリック・ランパール
2015年/フランス・ベルギー
アポロ11号が月面着陸に成功した理由について
とりあえず前提として確認しておきたいことはスタンリー・キューブリック監督が『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』をアメリカで公開した日は1968年4月3日で、アポロ11号が月面着陸した日は1969年7月20日である。
本作のメインストーリーは1969年にアポロ11号が月面着陸に失敗した場合に備えて、アメリカ政府がスタンリー・キューブリック監督にその代わりとなる映像の制作の依頼をCIA諜報員のキッドマンに託すところから始まる。
もちろんそう簡単に話しが進むはずはなく、新人のロックバンドのマネージメントを務めているジョニーが借金の申し込みのためにたまたま親戚のグレンのエージェントオフィスにいたところをキッドマンが訪ねてきて、間違って交渉を始めてしまうのである。
その後、キッドマンがアタッシュケースに詰め込んできた莫大な制作資金を巡って奪い合いが始まるのであるが、そのシーンが『2001年宇宙の旅』は言うまでもなく、『現金に体を張れ(The Killing)』(1956年)の現金の奪い合いや、『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』(1971年)の若者たちのドラッグや暴力シーン、『フルメタル・ジャケット(Full Metal Jacket)』(1987年)のようなキッドマンのベトナム戦争のトラウマや、『シャイニング(The Shining)』(1980年)の主人公を演じたジャック・ニコルソンのようにキッドマンは斧で敵を打ちのめす。
それでは本作はスタンリー・キューブリック監督のオマージュで成り立っている作品なのかと言えば、もちろんそれだけではないであろう。ラストでも明らかなように、マドリードに逃亡したジョニーやキッドマンたちはテレビでアポロ11号の月面着陸を目撃する。つまり今ではなく1969年に宇宙船が月面に着陸出来た理由は、スタンリー・キューブリック監督が最初に『2001年宇宙の旅』で具体的なイメージを与え、その他の作品でその一端を活写したようにロックミュージックやヒッピーカルチャーや学生運動など当時の若者たちの「熱気」がもたらしたということなのである。