山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

奥州に平和な独立国があったことを言いたいんだな!!

2021-12-29 20:30:38 | 読書

 前々から勝ち組となった歴史観に疑問をもっていた。最近は明治維新や明治政府樹立は正しい選択だったのだろうかという疑問がますます湧いてくる。そのうえさらに、東北や北海道の歴史は差別の歴史でもあった。古代から続く征夷大将軍という役職はついこの間まであった。だから、蝦夷のアテルイへの関心もその一つだった。そしてその「まつろわぬものたち」の代弁者ともいうべき高橋克彦氏が描いた壮大な小説『炎(ホムラ)立つ』全5巻(講談社文庫、1995.9)をやっと読み終える。

                 

 本書は、1993年に放映されたNHKの大河ドラマ「炎立つ」の原作ともなっている。脚本は中島丈博、主演は藤原経清を演じた渡辺謙。平安貴族の宮廷政治から平氏・源氏の武家政治へとの変貌する契機となった、奥州の「前九年の役・後三年の役」の時代が舞台だ。横尾忠則氏が描いた表紙デザインも素晴らしいが、よーく見ないと意図がわかりにくいのが残念。

                    

 高橋克彦氏はとどのつまり、縄文文化の中心は東北にあり、それはヤマト朝廷ができる前から東北が日本の中心だったということを描いた物語でもあった。そしてそれは、ヤマトに圧迫されていた蝦夷であり、出雲から疎開した物部氏らだった。彼らは陸奥を中心として朝廷とは独立したクニを築いていた。

                    

 陰謀と裏切りの戦乱の京都に対し、縄文の伝統を守り森に住む平和的な陸奥が対照的だ。「前九年の役」の「役」とは、外国との戦争を表現する。内乱であれば「○○の乱」と言うべきだ。つまり、当時の東北は朝廷にとっては異国だったのだ。

 陸奥の統一的な指導者が安倍氏だった。アテルイを征した坂上田村麻呂の教訓から安倍氏は朝廷との融和を図ってきたが、関東で源氏の基盤を作ろうとしていた源頼義・義家父子らの介入により戦乱が12年も続く。

                    

 蝦夷の鍛えられた戦力と冬の厳しさという自然力は、仲間であった隣の清原氏の参戦により蝦夷は敗北する。しかしその後の、清原氏の内部分裂による「後三年の役」で源氏の台頭は決定的となる。それにもかかわらず、武家支配を恐れた朝廷は源氏を冷遇したことで、逆に、東北支配は安倍氏の流れをくむ藤原清衡・秀衡・泰衡の奥州藤原氏が任命される。朝廷のリアルなしたたかさがみごとに表現されている。

                    

 平泉を拠点とする奥州の藤原氏の登場は130年も続く日本で最初の武家政治を築く。その経済的栄華は、金の産出であり、馬の生育であり、宋との貿易などで支えられた。その象徴が金色に輝く中尊寺だ。しかし、その平和的な栄華は、頼朝ら源氏の策略で滅ぼされていく。

 解説を書いた評論家の井家上(イケガミ)隆幸氏は、「高橋克彦は、中央国家からみれば古代から一貫して<被征服者>である<蝦夷>の民の側に身をおくことで、この灰のなかから燃え上がった<叛>の正当であることを主張する」と、的確な評価をしている。東北の魂のルーツはここにありと著者が叫んでいる。この叫びを現代日本は受け止められるのだろうか。          

                       

 

 

 

 

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