ススキが幽霊に見えたり、空の雲が羊の群れのように思える錯覚を、専門用語で「パレイドリア」という。よく経験するのは、模様やシミが人の顔のように見える錯覚で、むろん偶然と分かっていても気になるものだ▲70年代に火星上空から探査機バイキング1号が撮影した写真に、人の顔のような地形が写っていた。人面岩と呼ばれ、「人工物か」と話題になったが、その後の観測で不規則な形の岩塊にすぎないと分かる。パレイドリアの一例である▲火星をめぐる錯覚といえば、その地表の「運河」も有名である。19世紀のイタリアの学者が「溝」と名づけた地表の模様が英語で運河と解釈され、知的生命体による人工物と想像された。しかし、これも観測が進むと一部の自然地形を除いて、そんな地形は存在しないと分かった▲怖いと思うとススキが幽霊に見えるように、人が火星に人工的な造形の幻を見るのも地球外生命の存在を期待していたからだろう。その生命存在の可能性を探りに火星へ着陸した米NASAの探査機「フェニックス」から、地表のすぐ下の氷の存在を裏付ける画像が送られてきた▲生命存在の前提となる水だ。それが確認できたのは氷と見られる地面の白い物質が時間経過と共に消滅したからという。白い物質は氷か塩に違いないが、気化したので氷と断定できたのだ。こちらの消滅は、錯覚による幻とはかかわりなかった▲フェニックスは今後も土壌を採取し、水や有機物の存在を調査する。さて、地球の私たちは太陽系で孤独なのか、どうか。仮に探査がそれに悲観的結論を下したとしても、まだ幻を見るわずかな余地は残してほしい気もする。
![](http://bn.my-affiliate.com/banner.php?s=00037761&p=00000268&bc=S2)
| Trackback ( 0 )
|
|