久々の東野作品である。2020年刊行。
祈念すると願いが叶うと言う不思議な楠の管理人をする事になった玲斗。
父親の顔も名前も知らず、彼は母子家庭に育ち、
子供の頃に母親も死んでしまい、祖母に育てられ、
苦労して就職したものの、思い通りにならない人生に悲観し、
犯罪者になってしまう。
そこに手を差し伸べたのは、亡き母の姉の柳澤千舟だった。
千舟は玲斗に取引を持ちかけ、被害者と話をつける代わりに
先祖代々守って来た聖なる楠の管理人を引き受けさせる。
何も知らないまま郊外にある楠の管理事務所に住む事になった玲斗は、
祈念にくる人々や千舟、柳澤一族と関わりながら、
楠の不思議な力を知るようになっていく。
私は念とか超常現象とか超能力とか霊の類は信じる方だ。
ただ実際に体験した事があれば、もっと信じられるのだが。
この楠の場合は、実は願いが叶うと言うのとは違い、
「念」を預けた人の思いが「念」を受け取る人に伝わる、
と言うところが面白い。しかもそれは肉親にしか伝えられない。
赤の他人には受け取る事の出来ない「念」は、
遺言の代わりになる事もある。
また、預けた人の「念」は良い事も悪い事も選ばず、
全てが伝えられてしまう、と言うのも面白い。