すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

村上春樹「海辺のカフカ 下巻」

2005-03-07 18:50:50 | 書評
「海辺のカフカ」でナカタさんが恐れる知事は時期的にも石原先生のことだよなぁ。エッセイで微妙に揶揄していることもあるし、石原先生と言えば戦争大好きだし、ナカタさんは戦争嫌いだし。


上巻からの続きです。下巻も読み終わりました。


どのエッセイだか忘れたが、村上春樹が仕事の依頼をされた際に「都会的な小説をお願いします」と言われて、
「都会的な小説ってなんだ?」
と記述していたのを覚えています。

確かに「都会的な小説」という言葉の定義が怪しいですが、まぁ、感覚的には理解できます。「人間関係が希薄」という感じでしょうか?
村上春樹の小説の中では、登場人物は地域性に属することなく、個人の記憶だけに依拠した悲しみを抱いて、一人で痛みに耐えている。友人や恋人との邂逅によって、その痛みはより深まったり、癒されたりする。

しかし、その物語の進展にかかわる関係性に血縁が登場することは、稀ではなかったでしょうか? それが、「都会的」な印象を与える一因でもあったように思われます。


「アフターダーク」以外の長編小説は、だいたい読んでおります。が、全部を完全に覚えているわけではないです。ので、断言はできないのですが、これまで村上春樹の長編小説で、主人公の家族が重要な要素になることはなかったのでは?

「ねじまき鳥クロニクル」では、主人公の妻の「クミコ」に対して、その兄である「綿谷ノボル」が近親相姦の願望を抱いていることが描かれていました。
しかし作中において多くは語られておらず、読んだ当時は「綿谷ノボル」の「悪」を強調する小道具として、安易に持ち出した印象が否めず、「安っぽいな」と思っておりました。

しかし、以降に発売された「神の子どもたちはみな踊る」では、短編ではありますが主人公が母に対して近親相姦の願望を抱いている作品があります。
正直なところ、近親相姦をテーマにするなんて村上春樹らしくないなぁ~と思っていました。


で、「海辺のカフカ」は、どっぷりと「家族」を重要なモチーフとして書かれております。

村上春樹の小説は、毎回「都会的」の他にも「性」も重要なモチーフとなっています。これに「家族」が加わった結果、「近親相姦」となるわけです。普通なら「家族」をテーマにしても「近親相姦」とはならないのでしょうが、村上春樹にとっての「性」は、そこまで求めてしまう苛烈なものなんだなぁと、「海辺のカフカ」を読んで思わされました。

これまで村上春樹が注意深く「家族」というもの主人公から排除した作品を成立させてきた理由の一端が、垣間見える気がします。(別に、村上春樹に近親相姦の願望があると言いたいわけではありません)


「大島さん、ほんとうにありのままに言って、僕は自分という現実の入れものがぜんぜん好きじゃないんだ。生まれてからただの一度も好きになったことがない。むしろ僕はそれをずっと憎んできた。この僕の顔や、僕の両手や、僕の血や、僕の遺伝子や……とにかく、僕が両親から譲り受けたものすべてが呪わしく思えるんだ。できたらこんなものからすっかり抜けだしてしまいたいと思う。家を出ていくみたいにね」
 大島さんは僕の顔を眺め、それから微笑む。「君は立派に鍛えあげられた肉体を持っている。誰から譲り受けたものであれ、顔だってなかなかハンサムだ。まあハンサムというにはいささか個性的すぎるかもしれないけれど、ぜんぜん悪くない。少なくとも僕は好きだ。頭もちゃんと回転している。おちんちんだって素敵だ。僕にもそういうものがひとつあればいいのにと思う。これから先、少なくない数の女の子が君に夢中になるはずだ。そういう現実の入れ物のいったいどこが不満なのか僕にはわからないけどね」
 僕は赤くなる。
 大島さんは言う、「まあいいや。きっとそういう問題でもないんだろうね。でもね、僕だってこの自分という現実の入れ物が決して気に入っているわけじゃない。当たり前の話だ。どう考えたってまともとはいえない代物だものね。便利か不便かという文脈でいえば、はっきりいってひどく不便だ。しかしそれにもかかわらず僕は内心こう考えている。外殻と本質を逆に考えれば――つまり外殻を本質だと考え、本質を外殻だと考えるようにすれば――僕らの存在の意味みたいなものはひょっとしてもっとわかりやすくなるんじゃないかってね」(村上春樹「海辺のカフカ 下巻」82頁~83頁 新潮文庫)


さて、村上春樹のイメージである「都会的」というのは、「本質」なんでしょうか? 「外殻」なんでしょうか?


海辺のカフカ〈下〉

新潮社

このアイテムの詳細を見る
神の子どもたちはみな踊る

新潮社

このアイテムの詳細を見る

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編

新潮社

このアイテムの詳細を見る
ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編

新潮社

このアイテムの詳細を見る
ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編

新潮社

このアイテムの詳細を見る

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
う~m、mm (呉学人)
2005-03-07 22:39:32
オイディプスコンプレックスってやつですか。

村上春樹はいろいろやってくれて読者として、

一句一句美味しい作家ですよね。



ボクは上巻の100ページ

おちんちんのくだりが大好きです。

今までになかった感じ。



アフターダークも好きですよ。
返信する