博多住吉通信(旧六本松通信)

 ブログ主が2022年12月から居住を始めた福岡市博多区住吉の生活や都市環境をお伝えします。

トゥフター

2019年02月26日 | 時事

 「トゥフター」というロシア語があります。ロシアのアルファベットであるキリル文字で綴るとтуфтаとなります。ロシア語辞典でこの言葉を引くと、先ず「凝灰岩」という言葉が出てきます。この言葉はロシア語の俗語としては、品質の悪い仕事、いかさま、にせもの、たわごと、ナンセンスという意味だと、ロシア口語大辞典に載っているそうです(注1)。旧ソ連時代の労働ノルマをごまかしたり、統計データを改竄したりといった行為をさす言葉のようです。実は「凝灰岩」という言葉にも、スターリン時代の強制労働の悲惨な歴史を反映した意味があるのだそうですが、ここでは省略させていただきます。

 今、わが国では統計不正問題が発生しておりますが、私はこんなことが21世紀の現代の日本で起こったことに驚きを隠すことができません。この問題が最初に報道された時に、私の頭をよぎった言葉が上記の「トゥフター」という言葉でした。1970年代のブレジネフ書記長時代のソ連では国家の統計が信頼できないものになっていました。社会主義の名の下の中央集権型指令経済では、中間管理職が自分に都合の良いように、あるいは上司を忖度してデータを恣意的に改竄して報告することが多かったためです。これ以外にも公式の流通経路を辿らない物財の流れが政府の想定以上に大きかったこと(シャドウ経済と呼ばれていました)なども原因の一つでした。また統計自体を国家機密扱いにして秘密主義を国策として徹底していたということも原因の一つです。その結果、1970年代のソ連は不作や集団農場の非効率のため小麦など穀物の不足が深刻化していく中で、ブレジネフは自国の統計が信用できないことに頭を抱えることになります。しかし秘密主義を主導し部下に「忖度」を強いていた最高位の指導者がブレジネフその人ですから、これは自業自得なのですが・・・

  困ったブレジネフは、アメリカ中央情報局(CIA)が独自にソ連農業を調査して発表した数字を参考に食料農業政策を立案していたそうです。CIAは偵察衛星でソ連の穀物の生育状況を調査しますから、調査の信頼性が非常に高かったのでした。しかしいくらCIAが有能でも、ソ連の食糧倉庫にどれだけ小麦粉が保管されているかまでは偵察衛星でも分かりません。いっそCIAに調査費を払って倉庫の中も調べてもらってはどうかというアネクドート(小話)に大笑いした記憶があります。40年位昔の話です。

 しかし時代が下るにつれて状況は深刻化していきます。1980年代に入るとソ連経済はどんどん凋落していきます。1985年に就任したゴルバチョフ書記長は、ソ連経済の根本的な建て直しのために政治制度まで含めた思い切った改革が必要だと決意し有名なペレストロイカを開始しますが、この時最初に手を付けたことが政府統計部門の改革でした(注2)。しかしそれは遅すぎました。その約5年後にソ連は崩壊してしまいました。

 いや、しかし、まさか40年後の21世紀の日本の統計で旧ソ連の 「トゥフター」のようなことが起こるとは夢にも思いませんでした。この統計不正がもたらした最大の問題は、私たちはかつてのソ連を笑えなくなってしまったということです・・・

 上の写真は、以前モスクワ近郊のホテルで食べたウクライナ風水餃子(小麦粉の料理です)です。上にかかっている白いものはサワークリームです。

(注1)「閑話傍題(アネクドートの小部屋)」さんのブログに詳しい説明があります。http://rosianotomo.com/blog-anekdot/archives/2016/01/384_2.html

(注2)法政大学 日本統計研究所「統計研究参考資料 No.32」 1989年 https://www.hosei.ac.jp/toukei/shuppan/g_sanshi32.pdf


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