羽花山人日記

徒然なるままに

ゲノム編集品種

2024-01-09 16:24:56 | 日記

ゲノム編集品種

昨日の朝日新聞に,シリーズ「明日なに食べる?」の6回目として,『ゲノム編集 ひと味違う新品種』という記事が出ていた。

筑波大学の江面教授らが開発したトマトの品種が中心的な話題で,育成に使われたゲノム編集技術,その安全性,品種の特性が,簡潔に論じられていた。

ゲノム編集とは,DNA上の特定の場所を切断する酵素を用いて,目的とする遺伝子の機能を改変する技術である。

遺伝子組み換え技術が,外来の遺伝子を持ち込むのとは違って,ゲノム編集は既存の遺伝子を変えるだけなので,従来用いられていた放射線や化学物質による突然変異誘発技術と同等であり,安全性についての検証は必要ないというのが政府の見解である。

確かに,これまでに誘発突然変異によって育成された,ナシのゴールド二十世紀や,イネのレイメイなどは安全性の検証なしでリリースされ,問題は起こしていない。しかし,消費者に広く受け入れられるためには,ゲノム編集を経て作られたことは表示するのが望ましいだろう。

この記事で紹介されているトマト品種「シシリアンルージュハイギャバ」は,遺伝子編集技術を用いてギャバの蓄積を阻害している遺伝子を不活化したトマトの後代で,従来のトマトよりギャバの含量が4~5倍高いとされている。

ギャバ(GABA,gammma-amino butyric acid)は生物界に広く存在する天然アミノ酸の一種で,脳や脊髄で興奮を鎮めたり,リラックスをもたらしたりする役割を果たしている。また,血圧を下げる効果も知られている。本来なら,体内に含まれるギャバで,これらの機能は満たされているのだが,高齢になったり,ストレスにさらされたりすると不足し,外から補う必要が出てくる。

わたしたちが食べる食材にもギャバが含まれている。トマトは野菜の中ではギャバを多く含むとされ,品種や栽培条件によるが,30~60mg/100gの含量が報告されている。「シシリアンルージュハイギャバ」はこの4~5倍ということだから,かなり高濃度のギャバを含むことになる。

ギャバが不足する際の必要摂取量は30~100mg/日といわれている。ミディアムのトマトは1個25gくらいなので,4個食べればこの量を十分充足できる。

「シシリアンルージュハイギャバ」の価格がいかほどか,つまびらかには分からないが,開発に要した費用などを考えると,通常品種のそれより高価なはずである。

わたしは,普通に摂取して必要成分を補うのが食品であり,ある成分を目滝として摂取するのはサプリメントではないかと考える。ギャバに関していえば,普通の食材でかなりの量が摂取できるので。特段の事情がない限りは,ギャバの摂取そのものを目的としたサプリメントは必要ないように思う。

ギャバ高含量の食材が開発されるのは,もちろん喜ばしいことである。しかし,それが消費者に食材として受け入れられるためには,ギャバ高濃度だけを売りにするのではなく,価格や品質が普通のトマトと同等になることが必要だろう。

最後に,育種学者の中尾佐助さんのいった言葉を付け加える。

「近代農業技術は,いま存在するイネとムギの品種が,過去何千年間発達してきたと同じように,将来に向かってわずかにスピードアップして発展させることができるようになっただけである。」(『栽培植物と農耕の起源』岩波新書 1966年)

 

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コメント (3)
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