右 顧 左 眄
1月8日にNHKBSで放映された,『ヒューマニエンス “左と右” 生命を左右するミステリー』はちょっと面白かった。
脊椎動物は発生の過程で,先ず口と肛門が決まり,上下の軸ができる。次に眼の発生で前後ができる。その結果,体の左右が決まる。だから,上下だけが決まっていて,前後のないクラゲのような動物には左右がない。
どうも左右というのは,上下・前後に付随して決まるようで,広辞苑で「左」を引くと,「南を向いた時東にあたる方」と出ている。前後があるからこういえるのだ。
ヒトの体は左右対称に見えるが,体内の器官の配置を見ると,心臓はやや左側,肝臓はやや右側となっている。この左右が逆の人がいて,わたしはそうだった人を現実に知っている。
頭は上になければならないし,眼は前の方に着いている。しかし,機能あるいは場所の左右は,トポロジー的にはどちらも可能である。
番組では,生物の左右について研究している北海道大学准教授の竹内勇一さん,専修大学教授の大久保街亜さんをゲストにして,動物の左右をめぐる話題が提供された。
先ず利き腕について。
ヒトに1番近縁のチンパンジーには利き腕はなく,左右どちらでも使える。この利き腕の左右性は人類の特徴であるらしい。
ヒトの腕の右利きと左利きの比はは9:1で,世界の民族を見ても大体共通している。
利き腕は遺伝的な性質らしい。左利き同士の子どもは26%が左利きで,左利きと右利きの子どもは16%,右利き同士の子どもは9%がそれぞれ左利きであるそうだ。最近の研究で,利き腕に関する遺伝子が41個同定されているらしい。
ではなぜ右利きが多いのか。進化の過程を考えると,生存競争において利き腕の左右に優劣の差がないとすれば,右と左はほぼ50%になるはずである。逆にどちらかが有利であれば,不利な方は淘汰されごくまれにしか生存しないはずである。しかし,ヒトの集団では9:1の比で平衡状態を保っている。
番組ではいろいろな可能性が討論されたが,結論は得られていなかった。仮説として面白かったのは,言語中枢は左脳にあり,左脳が動きを司る右腕が利き腕になるというのだった。しかし,これも決め手にはなっていないようだった。
教室の窓は左側にあって,右手が影を作らないようにしている。あるいは,学用品は右利き用のものが多い。どうも多数派の右利きに世の中は便利にできているようで,右利きのわたしは少し後ろめたい。ピアノはすべて右利き用にできていて,左利きの人がピアニストになるには矯正が必要という話を聞いたことがある。
利き脚というのもある。番組の説明では,利き脚は速度を調節する右足で,左足は軸足だという。左の方が右よりも足がやや大きく,大腿骨が太くて大きい。運動場が左回りになっているのはそのせいだそうで,なるほどと思った。
顔は左右対称のようだが,表情豊かなのは左側であることが説明された。正面から見た顔と,鏡に映った顔を写真に撮って,正中線で切り,右と右,左と左をくっつけると,前者の方が無表情になる実験結果が示された。この原因は,表情を支配する中枢が右脳にあるからと説明されていた。
スマホで自撮りする時は,無意識に左の方から撮っているそうだ。16世紀から20世紀にかけての1474枚の肖像画を調べたところ,68%が左側を向けていたという。ところが,イギリスの王立協会男性メンバーの顔写真は,右側を向けて威厳を持たせているそうである。
2019年マウリッツ王立美術館にて撮影
赤ん坊を抱くとき左側を頭にするのは,表情豊かにあやすことができるからと説明していたが,抱き主の心臓の鼓動が赤ちゃんに伝わって安心させるから,という説を聞いたこともある。
遺影には,むっつりした顔を残したくないから,左を向けているのを選んでもらうよう,頼んでおこう。
STOP WAR!