すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

梅雨寒の読書メモ

2019年06月17日 | 読書
 先月から好天が続いていたので、ほんの少しだけ梅雨入りを待つような気持ちが芽生えた。データとしては「ようやく」は当てはまらないだろうが、いよいよ雨の季節になる。のっけから「梅雨寒」か。しかし有難がっている畑の作物はある。読書もどちらかと言えば雨音が聞こえると、心に沁みてくる気もするが…。


2019読了58
 『もらい泣き』(冲方 丁 集英社)


 これは文庫で読んだような…と思いつつ、単行本の古本を買ってみた。この作家、確かに「天地明察」は傑作だったが、語り手としてはどうなのか。以前読んだ時より、仕立てが甘いような印象を受けた。読者にもらい泣きをさせられないようじゃ、と勝手な評価をする。ただ、今回もなかなかいいフレーズはあった。


 親友の仕事と死を取り上げた『仁義の人』というストーリーの中の一節…「根回しは、まず自分から。自分自身に『仁義をきる』。それができない限り、本当に人に喜んでもらえる仕事はできないんだなって」。それから、公募された読者の文章もよかった。文庫には載っていない。特に「お菓子と募金箱」がぐっときた。



2019読了59
 『夜を乗り越える』(又吉直樹 小学館よしもと新書)



 かの芥川賞作家による読書礼賛と読書案内の本。しかし、普通の作家稼業の人が書くのとは一線を画している。生い立ちや学校時代のエピソードはよくあるにしても、お笑いを仕事にするなかで、常に手元に文学を置きながら醒めた目で自分を見つめている。メディアへの露出も多いが、かなり素に近い印象をうける。


 万事スピード化、経済化の中で、筆者の持つ観点の強さは際立つ。例えば「十年くらい人生を棒に振ったら、『人生十年棒に振った』という武器を手にすることができます」。これは何か(筆者なら読書)を糧に自分を見つけたからこそ言える。この新書の結論はこうだ。「本の中に答えはない。答えは自分の中にしかない。


コメントを投稿