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桜と絵本と豆乳と

本当に大切な欲望へ

2019年02月12日 | 読書
 最近というわけではないが、自分の中で心と身体は別物だなあと想像することがある。身体面の衰えを感じるようになったから、余計そんなふうに思うのだろう。心はずっと相変わらずで、肉体だけがポンコツになっていくような…。しかし現実はそうではなく、せめぎ合ったり慰め合ったりしているのかもしれない。


2019読了15
 『永遠のとなり』(白石一文  文春文庫)



 ほぼ同世代の作家。以前に一冊だけ読んだことがある。その時の印象とはまた違って、案外するりと染み入ってくる話だった。描いている人物もまた作家が投影しているようだ。住む場所や経歴が違っていても同時代感覚があると、その思考には共感できることが多いのだろう。何気なそうな一言に、ぎくりとする。

 「私は、私という人間のことが本当に嫌いだったのである」

 企業の営業や企画で働いていた主人公が、40代後半に会社合併や不倫、部下の自殺等を経てうつ病を発症し、精神科の病室で初めて内面に気がつく。そして、彼は登り続けてきた果ての現状を「ずっと厭いつづけてきたかつての自分自身たちから強烈なしっぺ返しを受けているのだ」と語る。過去を貶めてきた結果だと。


 今でこそ自己肯定感という語が幅を利かせているが、自己嫌悪の渦にずっと浸かってきた者には、弱さを受け入れる困難さが根強く染み込んでいる。それを底から癒すものは、一体何かと考えさせられる。本作ではそれがであり、故郷と言える。いたって平凡ではあるが、その筋道を見つけられるのは幸せなことだ。


 社会的な成功を収めたが今は病に苦しむ友と、心の底から話し合える主人公。互いに「再生」し合えるような関係である。誰とであれそんなつながりの有無は、人にとって「大切な欲望」の一つだろう。我々の欲望は次々と細分化され、それに見合ったサービスが提供される世の中だが、本当に大切なものへ届きにくい。


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