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坂道とまずいコーヒーと

2024年05月16日 | 読書
 Re39『坂道~LesPentes~』(ドリアン助川 ポニーキャニオン)。一人の画家の人生を、年齢順に見開きページで短い文章と坂道・階段等の写真で構成する。「0歳、気付けば僕は生まれていた」から始まり75歳までの「夕暮れ」までが描かれる。付属のCDもあり、著者の朗読も聴けた。思えば、初めて声に触れた。


 いい声だ。一定の修練があってこその「響き」を感じる。別の作品も聴いてみたい気にさせられた。淡々とした読み方は、この本にふさわしい。一番ぐっときたのは「64歳、持っている絵の具をすべて並べてみる。色の可能性を本当に私は試したのだろうか。」次ページに読点を打つように見開き写真が使われている。




 今風に言ってみると、カッケー小説だ。Re40『ソラシド』(吉田篤弘 中公文庫)。冒頭の一文からまずそう感じた。「まずいコーヒーの話でよければ、いくらでも話していられる。」…これだけで、どんな生き方を送ってきたか。毎日との向き合い方のいくつかが想像され、「世界」がぐっと寄ってくるような気がした。


 「あとがき」を見たら、実は同様の一行を配した小説が三つあると明かされ、もともとの出典までが記されていた。実に興味深い。「まずいコーヒー」の持つイメージは、風景につながりやすいのは明らかだし、もっと言えば、時代の文化が背景にあるのだろう。それはきっと80年代から始まり、現在もどこかに残る。


 「『あとがき』ばかり読んでいた」には参った。「本編」は「あとがきほどには面白くないと知っていた」という考えは、様々な要素が絡むが一面では真実とも言える気がする。つまり、書き終えてあるいは編み終えて、作品から離れた目で感じた思いや考えが水面に浮かんでくるような…掬い取れるエッセンスがある。


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