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さて、何を仕掛けますか

2021年01月12日 | 読書
 「隠居」に憧れたが、なかなか思うように実現できない。ではそれに変わる目的地はないものか、とあれこれ言葉を浮かべたなかに「耄碌(もうろく)」があった。しかしそれは黙っていてもそうなるか。改めて辞典で調べると「老いぼれ」だからね。そんな折に図書館の書棚に、ネンテンさんのエッセイ集を見つけた。


『モーロクのすすめ 10の指南』(坪内稔典  岩波書店)



 最初の「六十七歳の子犬」と題された文章に思わず共感した。67歳の誕生日を迎えた著者はこう書いている。「自分ながら少し驚く。何に驚くのか。こんな年齢になっても、二十歳や四十歳のころとさほど違っていない自分がいることに驚く」。むろん精神面を語っているのだが、多くの人に当てはまるとも言えないか。


 著者はその現実を肯定し、身体の衰えや表面的なことにとらわれず、自らを奮起させるための提言を行っている。それを「子犬の心」と称して初々しい気分を大切にし、「未熟」「反効率的」「破壊性」といった語を挙げながら、老人ゆえの可能性を探っている。それが、この本全体のプロローグ的な役割を果たしている。


 新聞の長期連載をもとにして出版された本著は、10の見出し(テーマ)によって編集されている。そのタイトルが面白く、それ自体がキーワードになる。「ウソ(方便)~茶化してみる」「オイタ(悪戯)~叱られてみる」のように「ボヤキ」(悲嘆)」「ギョウシ(注目)」「ウロツキ(俳諧)」「クフ(美食)」などが並ぶ。


 なかでも「シュウチャク(変態)」は面白かった。著者のカバ(河馬)好きは周知だが、それ以外に「あんパン」と「柿」がある。毎日あんパンを食べ、全国のカバに会い、柿のある地への旅を続けているという。つまり「度を越して入れこんでいる」。これを「自分への仕掛け」と喜ぶ境地が目指すモーロクだと悟った。


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