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鉱脈へ向かうエネルギーを

2013年05月06日 | 読書
 連休読書の3,4冊目はこれだった。

 『ボックス! (上・下)』(百田尚樹 講談社文庫)

 今を時めく人気作家と言ってもいいだろう。
 『永遠の0』をはじめ文庫になっている数冊を読んでいるが,まったく外れがない。

 この作家の取り上げる題材の多彩さにかけては,あまり例がないように思う。
 『ボックス!』はボクシングを扱った「青春小説」という区分らしい。
 上下巻合わせて800ページに及ぶ長編だが一気に読ませる魅力がある。

 ボクシングというスポーツについては,冬に読んだノンフィクション『「黄金のバンタム」を破った男』でもわかるように,著者自身が経験者であるゆえに実に細かく描写,説明される。
 ある意味では,ボクシング競技の入門書といっていいほど詳しい。
 アマチュアボクシングを観戦するうえでの基礎知識がばっちり付いた気になってしまう。

 しかし,もちろん一番の魅力はそこに描かれる人物たちの躍動する姿である。
 そこに浸って読み進めていけば,読書の醍醐味が十分に味わえる。

 それにしてもまあ,どうしても職業的な目で読む習性がついていて,教育論,上達論を探してしまうのは悲しい性ではあるが…。
 今回はこれ。

 才能の鉱脈

 なるほどの表現である。
 ボクシング部監督の沢木が言っている次のことは突拍子もないことだが,完全否定できない真実である。

 「テレビで,タイガーウッズを見てすごいなあと言うてるおやじの中には,きっとウッズ以上の才能を持っている奴がいるはずです。」

 それはまた特定の個人のことでなく,人それぞれに才能の鉱脈がどこかにあるという意味でもあるように思う。

 日々子どもに接する私たちが,その鉱脈に気づかせられるとしたらこれ以上嬉しいことはない。
 しかし,それは意識してできるようなことでもないだろう。
 それ以上に肝心なのは,せめてその鉱脈へ向かうエネルギーを削ぐことのない存在であることかもしれない。