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宇宙へ開かれる青―能勢伸子個展

2013-08-10 20:32:00 | 美術
 神戸・六甲道のギャラリー花六甲で能勢伸子さんの個展を見た(2013年7月30日~8月4日)。
 青の世界だ。
 流動する青がある。
 噴き上がる青がある。
 雪崩れ落ちる青がある。
 はげしく渦巻く青がある。

 風だ、この青の動乱は。
 天空を渡る風。
 大気圏を揺する風。
 大地を踏みつけて走る風。
 だが驚くべきことは、ここには地底を突き進む風さえもあることだ。
 水底で渦巻く風さえあることだ。

 ヴァルトブルク城の歌う騎士を大地の底深くへ誘ったヴェヌス(※)。
 あのヴェヌスの洞窟にも青い風が吹いていた。
 青い風が洞窟いっぱいに歌っていた。
 妖艶な神秘の歌を。

 永遠の生と永遠の至福を約束する神秘の歌。

 そして同時に死に満ちた神秘の歌。

 この青は深い両義の青である。
 すべての絵を両義の風が吹きぬける。

 さまざまな試みを重ねてきた作家である。
 大きなインスタレーションでギャラリーを埋め尽くしたこともある。
 いま、小さなタブローの世界へ戻ってきた。
 むしろ、小さなタブローの世界へ踏み出した。
 むしろ、限定された青の世界へ踏み出した。
 そこは、深い。
 これまでになく、深い。

 作家の底の洞窟が開かれた。
 宇宙へぬける洞窟だ。

 (※)ワーグナー「タンホイザー」

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