美島奏城  豊饒の海へ

豊饒の海をめざす、教育と文芸と風流に関する備忘録

『芥川賞を取らなかった名作たち』

2009年01月10日 | 読書もどき

  佐伯一麦氏の『芥川賞を取らなかった名作たち』(朝日新書)を購入。

  文学好きの方なら今の時期が芥川賞・直木賞の選考時期だということをご存じだろう。

 

  この両賞は文芸春秋社の菊池寛が友人二人を記念して創設したもので、新人賞だったこともあり当時はさほどの意味をもたなかったという。やはり石原慎太郎の『太陽の季節』あたりから一つの社会現象としてマスコミが持ち上げてきたようだ。

  そこでこの賞を取ると少なくとも数年は糊口をしのげるまでになった。その後はまさに実力次第である。

  歴代の受賞者で大家と言われるまでになった方は多い。しかし、逆に埋もれてしまった方もそれに比して多い。芥川賞を取りながらその後風俗作家に転向したものも多い。

  結局、芥川賞を取ったからといっても作家としての地位を保てるのは一握りということである。

 

  また、逆に大家として、または流行作家として名をはせたのに芥川賞を受章していない方も数多い。

  これも芥川賞や直木賞が文壇への登竜門でしかないからである。

 

  この本は、そのような受賞しなかった名作について書かれたものだ。

  掲載作品は以下のものである。

太宰 治『逆行』       北條民雄『いのちの初夜』

木山捷平『河骨』       小山 清『をぢさんの話』

洲之内徹『棗の木の下』  小沼 丹『村のエトランジェ』

山川方夫『海岸公園』    吉村 昭『透明標本』

萩原葉子『天上の花 -三好達治抄-』

森内俊雄『幼き者は驢馬に乗って』

島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』

干刈あがた『ウホッホ探検隊』

 

 そうそうたる方々が芥川賞とは無縁だったことになる。実は村上春樹も受賞していないのだが、初めから人気作家だったので取る必要もなかったのだろう。村上なら候補作の『風の歌を聴け』(群像新人賞)あたりなるのだろうか?