スカーレット手帖

機嫌のいい観客

ホットスポット2016 シアタークリエの翻弄する夏・後篇「ジャージーボーイズ」

2016-08-03 | 観劇ライブ記
怒涛の熱狂はつづくつづく。
6月、夢のように現れた、ポップでアメイジングなアートの世界にあっけにとられていたら
終了翌週には泥臭くもある、汗臭くもある、アメリカンドリームと数々の名曲に包まれた
愛すべき男たちのストーリーが始まっていた。

「ジャージー・ボーイズ」
日本版、初演、である。



今回の公演、TEAM REDとTEAM WHITEのWキャスト制。

私は双方1回のみの鑑賞、
それもREDは本初日、WHITEも2週目という序盤の段階の印象だが、

ザックリいうと、

TEAM REDは「木更津キャッツアイ」である。
TEAM WHITEは「新撰組」である。

どちらもチーム男子好きにはおなじみ、殿堂入りの類型である。


TEAM REDは、
ラッキーチケットでたまたまうまく転がっていくオニイチャンたちの人生のおかしみ。
どこまで行っても足を引っ張ってくる出自の悪さに唾を吐き、
悪態をつきながらも馴れ合っていく4人の泥沼関係に、「アホだな~」と思いながらも
「私たちには立ち入れない絆」と思わせてくるところがある。

藤岡トミーがほんとうに小憎たらしく、たちの悪い地元のあんちゃん、
という感じがあるのが大きい。本当に、日頃から気軽にカツアゲをしていそう。
間違いなく地元の駅に座り込んでいるタイプ。
学校を通じて自宅に通報が入れられるタイプの要注意男である。
また、矢崎ぴろしボビーも、若くて能力と実力はあるのだけど、
なにかどことなく「感性型」という感じが漂っており、
大負けはしないけど、時々興味本位で突っ込んだりはしてしまい、
それでかすり傷とか作っても「てへ」と言ってそうなかわいらしさがある。
(こういうところ本人の気質だと思うけど好きです)
そして一番面白いのが吉原光夫ニック。すばらしいでくのぼうだ。
チーム内の「バカ」がどれぐらい愛すべき存在なのか、というのが
チーム男子にとってはけっこう大事だと思うのだが、
吉原ニックは、アナと雪の女王のオラフ的なマスコット感がある。
めちゃくちゃチャーミングである。
基本的に黙っている年長者なのだが、
「本当によくわからないから黙ってた」
というような雰囲気があって、泥んこ関係の中でほっと息抜きできる。すごい演技力ですね。


TEAM WHITEは、
それとは対照的に、何か「義」のようなものを持って集った集団のように見えるのだが、
全員でその義を追いかけていったら、真ん中が実は空洞だった、というような哀しみ。
守ろうとしていたもの、目指そうとしていたもの、深く見えたががらんどうだった 
というような、男のわびしさを感じる座組みであった。

中垣内トミーは、
「タイミングが合えばヒガシのかわりに少年隊に入れたかもしれない川崎の青年」
という感じである。
虎視眈々と地元にくすぶっているが、策士としての意思よりも、
運命に翻弄される側的な危うさを感じる。映画版のトミーに似ている。
海宝ボビーは「これぞ若手ホープ」ということで、存在感も華もあり歌もうまく、
立ち居振る舞いも理知的、誰もがスカウトするだろう。
ただ、この完璧笑顔が逆に計算なのでは…という肚の中が読み切れないような恐ろしさがある。
そして福井ニッキーがびっくりする。
彼はどう見ても「近藤勇」である。なんならちょっと「ケン・ワタナベ」的でもある。
黙っている年長者だが、吉原ニックとはわけが違う。
場数を踏んできた年長者として背後から見守りつつ、
ひとつひとつの挙動もチームに対する意味のある沈黙、意味のあるGO出しに見える。
(その実、そうでもないとこがおもろいのだが)

これは大いに演者のバランスから私自身が感じたことなので、
全然ちがうやんけ または 最初そうだったけど変わったよ とかいうご意見もあろうことかと思うけれど、
まあそれにしても、同じ役で同じ台本、同じ演出がついても
役者が変わるとこれだけ受けるものが違うのか、という、すなおな驚きに満たされた。
複数キャスト公演はこれまでもよく見ているけど、いつもは「ひとりずつの組み合わせ」が毎回ちがう。
それではなくて、「固定の組み合わせで2チーム」というのは非常に面白いと思った。
そういう意味では、全員いかんなく個性を噴出させていた、と言えるのかもしれない。
とても贅沢なキャスティングだったと思う。
ちなみに個人的には、REDのほうが好みかな、と思う。
馴れ合いが強くてちょっとイライラするけど。(褒めています)

ちなみに歌声のバランスは
赤はわりと自由に、白はキッチリカッチリ という印象だったけど、これはどうかな…
恐るべきことに、歌声の記憶が薄れつつあるような気がする。


なぜかというと、やはり歌声は主役が圧倒的だからなのだと思う。

両方に出演し、すべてのステージで主役を演じきったのが中川晃教なのだが、
ふしぎなことに、別に中川フランキーは、決してそれぞれの「チームの要」ではない。
「フランキー・ヴァリ」という単体で、別格なのだ。
冒頭トワング歌唱で登場するその時点からすでにちょっと人間離れしている。
歌に込める思いが全力すぎて、セリフとかちょっと不思議なところもあるんだけど
声がフワァァァァだからこちらとしてはもう、ひれ伏す。
ときどきちょっと時々ハマケン(浜野謙太)にも見えるけど、全力でひれ伏すね。

天才が似合うと言われる天才、という評は死ぬほど受けてると思うけど、
実感値としてそうなので言わざるを得ない。
中川晃教は「天才が似合う天才」です。


あと、今回超特筆したいことがある。
基本的、兼ね役大嫌いマンとして界隈に名を馳せる私(馳せてない)だが、
なんとびっくり。今回、
≪兼ね役が全く全然気にならない≫
という奇跡の演目であった。なぜだー、不思議不思議。
本当に脇の人たちがみんな絶妙で上手かったし、演出も良かったんだと思う。
あとは、あくまでフォーシーズンズの物語、という組み方になっていたんだと思う。

綿引さやかちゃんなんか、あらゆる女を演じていたのに、混ざらない。
嫁役で「カストルゥッチョ!」「トムーチ!」とか言うところ、好きでした。
(イタリア人は母音が大好き)

太田もっくんについてはこちらで個人的に褒め倒したのでもういいんじゃねーか、
という気もするが、せっかくなので具体的な話をすると、
彼は今回、ボブクルーというフェミニンでスピリチュアルなプロデューサー役のほか、
カメラマンや観客などをやっていた。カメラマン緊張しそう。生撮影だからね。
というか、バランス考えるとボブクルー役って結構重要だし、
昔なじみの設定とはいえもうちょっと年いった人が演じそうなのよね、
そこを敢えて、20代の太田もっくんに任せたあたりになにか本作品の意図を感じたよ。
ほかのアンサンブルでも、例えばジョーペシ役も高校生の石川新太君がやっていたり、
若さがキーポイントだったようだ。「青春」ということですね。
てか、平たく言って彼、今回大抜擢だったんちゃいますのん。
そんでそれを見事に果たしていらっしゃいました。真面目な人だよね。
見た目では、ボブクルーのおべべがようお似合いどした。
おしゃれな白スーツに柄のインナーをしゃらりと着こなしてはりました。
足が、長い。顔が、きれい。


しかし、先月のラディアントベイビーもそうだが、演者は日本人だけど
アメリカ人の話からしかこういうハッピーエキスは得られないのか。
日本人の話でこういうエンタメはないのか。
日本人がスカッとする話といえば、会社の中で追いやられて臥薪嘗胆、不屈の闘志、組織の団結、寡黙な技術者
みたいな、山崎豊子か池井戸潤か、やたらあと戦争か……
ないですかね、、、

あっ、もしかして

それは部活

そうか、テニス自転車よ、野球バスケバレーボールよありがとう。
日本人の青春は部活です。部活が大好き、私です。(おもに水道橋方面に向かって敬礼)



というかですね、今回2つの感想をまとめて書いたんですが、
ジャージーが好きな人は絶対ラディアントベイビーも好きだし、
ラディアントベイビーを見てジャージーを見ていないのは大いなる失点、という感じがするんだよ。
強烈な演目が2か月連続で企画されて、東宝芸能部すごいねって話と
完全に私はターゲティングされてるね、という自意識であふれそうです。

多分、キンキーブーツも同類に楽しめる部類だと思うので、見に行きたいんだよね。
チケットないけど。
8月、ホットスポットは東京中を駆け抜ける。
モンスターボールを投げつけて、早めに捕獲していこう。

ホットスポット2016 シアタークリエの翻弄する夏・前篇「ラディアントベイビー」

2016-08-03 | 観劇ライブ記
とつぜんNHKスペシャルのようなタイトルから始めてしまったのだが、
どうにもその通りなのだから仕方がない。
2016年の6月と7月は、有楽町のシアタークリエに私は釘づけだった。
都会の真ん中に突如現れる2時間半の熱狂空間。
見事に踊らされてしまったものとして、この率直な感想を東宝芸能部に捧げます。
このシアタークリエの企画力がすごい2016、前篇です。
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MOVE&DRAW&MOVE&DRAW &MOVE&DRAW&MOVE&DRAW

MUSIC=SEX=LOVE=LIFE

Hot to mato soup/hot tomato soup
 

プログラムコードでも文字化けでもないのである。
これらはすべてキース・へリングの生涯なのであった。
This is the world of KEITH HERING.
6月公演は「ラディアント・ベイビー ~キース・へリングの生涯~」である。

まず言いたいが、このタイトルはちょっとしたトラップである。
こんな美術館の片隅においてあるアート作品みたいなタイトル、
地味であんまり目に入ってこないじゃないですか。
ひどいトラップです。
蓋を開けたらまさに「るつぼ」なのに。
開けた人だけがわかる混乱の極みに、あっけにとられた次第であった。

内容はまさにタイトルどおり、
実在のポップアーティストであるキースへリングの生きざまを舞台にしたものなのだが、
ちょっと他にはない才能を軸に、はちゃめちゃに転換していくキースの人生が
めちゃくちゃかっこいい。

私、主演の柿澤勇人に対する印象がガラッと変わった。
ハマり役である。
死に直面するキースへリングの周りを行ったり来たりする過去の記憶のなかで、
柿澤キース、歌って踊りながら、だんだんトランス状態になっていく。
身体をバネのようにしならせながら、絵を描いたり吠えたりキレたりしている。
子供達を焚きつける、友人を挑発する、恋人と愛を重ねる。
たぶん、実物のキースへリングはもうちょっとナードというか、
いろんなコンプレックスがあったりして
本人もへなへなだったんじゃないかと思うので、
きっと、柿澤みたいになりたいな、と思う方の人間であるような気がする。
でもフィクションだから見栄えよくなっておりました。非常にかっこいい。

あと、今回松下洸平はじめて見ました。いい男だね〜!(ババアの感想)
色気と危うさ。魅惑の一重まぶた。これは惚れますわ。
芳雄の嫁・知念里奈も初見ンンン
相変わらず独特のハイトーンボイス嫁〜〜
昔プレシャスデリシャスのCD持ってた〜〜多分まだ実家にある〜〜〜〜
平間壮一くんもとても楽しそうだった。
RENTに引き続き、NYのHIVサバイバーを等身大にやっていた。ダンスはもちろんうまい。
有限の人生を悟りながら今を前向きに生きる人間役はもう完璧なんじゃないですか
(そんな役ひんぱんにあるのかは不明だが)

ブリブリ響いてくる生バンドもいちいち鼓動のようで、
その勢いにのってspiとかエリアンナとかMARUとかのアンサンブルキャストが
大迫力のエンタメパフォーマンスを仕込んでくるので、
その舞台からの圧倒的な「圧」に自然と涙が湧き水のように出てくる。感動した。
鮮烈、痛快、やがて悲しき人の世かな、というかんじ。
一番好きなのは内なるアンディーウォーホルとの対話シーンかな…ホトマトスープ。
子供たちの存在もとてもいい。
初回に、ジェニファーの娘のミアちゃんが出ていた。
日本人の達者な子役ももちろんいいのだが、
若干幼さで不安定だけど存在感のある子が一人いると、ぐっと見てしまうなあと思った。

全般的に、もとの脚本がすごい面白いんだと思う。
そしてところどころに、ああ岸谷五朗、という演出満載で(ニホンゴニホンゴニホンゴ〜 とか。)
楽しく、クスッと笑える。
今回の岸谷五朗ガチャ大当たり、というかんじだった。
五朗ガチャ結構当たり外れあるんだけど(個人的な感想です)、
イキイキハッピーなショーアップさせたらこの人は実にすばらしい演出家だよな。
そしてさすがの舞台美術。ポップアーティストをテーマにしただけあって、
小物まで平面図のような作りで面白い。
ラディアントベイビーのモニュメント(?)を、椅子にしたり小道具にしたりと
畳みかけるポップ。


転がる石に苔むさず、太く短く生きろ、
欲しいときに欲しい!!
カラッとした涙のあとあじとともにそんなメッセージを受け取る気がする
すばらしい人生ショーであった。
大阪公演が柿澤氏のけがで中止になってしまったこともあり、
(そりゃあんだけ全力で飛び跳ねてたらたぶんケガするわ)
ぜったいに再演したほうがいいし、ぜったいに見に行ったほうがいいね。