生まれては消えていく、クルマのブランドネーム。
約10年前に「アヴァンシア」というクルマがホンダからリリースされたことを、アナタは憶えているだろうか。
2.3Lの直列4気筒エンジンと、3LのV6エンジンを積む、非常に大人びたイメージのクルマであった。
一見するとステーションワゴンのようにも見えるが、そのコンセプトは「4ドア・クラブデッキ」!
かつての「アコード・エアロデッキ」の5ドア版といってもいいのかもしれない。
そのつるんとしたけれんみの無いスタイルが、ヨーロッパの街並みによく似合う。
いまでは当たり前の存在になりつつあるが、自発光式メーターや燃費計を含むマルチインフォメーションディスプレイを、いち早く採用。
そのシートのカラーや、木目パネルのあしらい方等は、そこはかとなくイギリス調である。
シートのデザイン自体が、なにか格調を感じさせ、素晴らしい。
リヤシートを倒せば、広大な荷室が出現する。
ただし、開口部は掃き出しにはならないので、重い荷物の積み下ろしには若干のやりにくさがありそうだ。
そこが「ステーションワゴン」ではなく、「4ドア・クラブデッキ」たるゆえんなのだろう。
後席に座る人のためのおもてなしとして、専用のエアコン吹出口やテーブル等を装備。
ポケッテリアも、非常に多彩!12種類もの小物入れが用意されている。
さらに魅力的なのが、「L-4」と称する4WDモデルである。
ノーマルモデルよりも最低地上高を30mm高め、ルーフレールを装着したその姿はジェントルかつスポーティ。
レガシィでいえば「ツーリングワゴン」に対する「アウトバック」的な存在のクルマであった。
4WDシステムは、ホンダお得意の「リアルタイム4WD」。
いわゆる、スタンバイ4WDである。
このシステムがいいのか悪いのか、冬に乗ったことがないので私には判断できないが、スバルの「シンメトリカルAWD」とは似て非なるものと推測される。
4WD仕様のインテリアは、「ダーククオーツグレー」で統一されていた。
「L-4」ならではの特別装備も多彩である。
このアヴァンシアというクルマは、一言でいって非常に大人のセンスのクルマだった。
ボディカラーやインテリアカラーには趣味のいい色が揃っており、渋い上質感がある。
そのシンプルなスタイリングから想像するよりも、このクルマはずっと大きい。
ノーマルモデルの全長×全幅×全高は4,700×1,790×1,500mm。
4WDの「L-4」にいたっては、4,795×1,810×1,545mmとなる。
ちなみに、デトロイト・ショーで発表されたレガシィ・コンセプトのそれは、4,795×1,820×1,500mm。
う~ん、きっと偶然なのだろうが、非常に近いサイズである。
私がかつてホンダ車に抱いていたイメージは、他の国産車とは一線を画する、バタ臭いフィーリングである。
このアヴァンシアというクルマは、それを持っていた最後のホンダ車だったような気がする。
近年登場したホンダのクルマは、どれもこれもデザイン過剰で、コドモっぽいイメージになってしまった。
このアヴァンシアが日本でヒットしていれば、ホンダデザインの方向性は、今の路線ではなかったかもしれない。
だが、やはり日本で使うには大きすぎるサイズと、同じような価格でやや抑え目のサイズのアコード・ワゴンが同社に存在したことが、ネガとなったのであろう。
このクルマも、一般には認知されることなく、フェイド・アウトしてしまった。
それにしても、ここ10数年の間で、ホンダからリリースされたクルマのうちで、消滅したブランドネームはいくつあるのだろう。
「ロゴ」「キャパ」「バラード」「コンチェルト」「ドマーニ」「オルティア」「アスコット」「ラファーガ」「トルネオ」「ビガー」「セイバー」「インテグラ」「プレリュード」・・・そして、この「アヴァンシア」。
とうとう、ホンダDNAの最たる存在である「S2000」も消滅することとなったようだ。
あのモデルの末期に追加された「TYPE S」の大仰なリアスポイラーを見るにつけ、ホンダデザインの趣向が昔とは大きく変わってしまったことが、かつてホンダファンだった私には、残念でならなかった。
ホンダデザインの復活を、私は心から祈っている。
合掌。