Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§113「王の挽歌」(大友宗麟)遠藤周作, 1992.

2021-04-24 | Book Reviews
 鎌倉時代から続く由緒ある守護大名 大友家、戦国時代には北部九州六ヶ国を平定したキリシタン大名 大友宗麟、洗礼名「ドン・フランシスコ」の真実に迫る物語。

 武力のみならずあらゆる権謀術数が跋扈する戦国の世、大友家を率いる宗麟の家臣が語った言葉。
 
「お家形さまの心には外見の思慮深さとはまったく違う、何か暗く複雑な面があるような気がしてなりませんでした」(上巻 p85)
 
 幼き頃に亡くした母を想い、自分を認めてくれぬ父に対抗心を抱いた彼の心理状態は、ギリシャ王の悲劇になぞらえた「エディプス・コンプレックス」だったのかもしれません。

 そのコンプレックスを克服する前に、溺愛する異母弟に家督を譲ろうとした父の誅殺を図った彼は、お家形としての義務と責任によって縛られてしまったのかもしれません。

 ひょっとしたら、彼は縛られた心に欠如した在るべき自らの姿を豊後を訪れた宣教師 ザビエルのなかに見つけようとしたのかもしれません。

「人が偶然と呼ぶもの-実は我々を超えた何かの働きなのだ。でなければ、ザビエルは宗麟の人生にこれほどの深い痕跡を残す筈はなかった」(下巻 p226)

 同情や憐れみは永くは続かぬまでも、耳を傾け尊重する姿勢があればこそ、お互いに心を許しあえるのかもしれません。それが永遠の随伴者という在るべき姿のような気がします。

初稿 2021/04/24
校正 2022/02/15
写真 聖フランシスコ・ザビエル聖堂, 1928.
撮影 2021/04/23(東京・神田)

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