Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§8「海と毒薬」 遠藤周作, 1958.

2013-04-09 | Book Reviews
 時は太平洋戦争末期。とある大学病院における生体解剖実験に携わった人々の心理を描いたノンフィクションと見間違えるほどのフィクション。

 当時、読んだ時にはキリスト教と比較した日本人の倫理観の欠如を問うているかと思っていましたが、約二十年ぶりに読み返すと、信じることと期待することの違いとは何かということを問うているような気がします。

 自らの良心を実感できず、あえて呵責を感じるがために、その実験への参加を選んだとある医師。空襲でひとが亡くなる閉塞感のなか、その実験への参加を断ることを選べなかったもうひとりの医師。想いを寄せる医師のそばに寄り添いたいがために、その実験への参加を選ばざるを得なかった看護士。

 いづれにしても、何かを信じたのではなく、おのおのがそれぞれに、何かを期待して自らの行動を選んだような気がします。

 「海」とは河が流れ込むように、誰しもが抗えない運命なのかもしれず、「毒薬」とは何かを信じることなく、期待だけで行動したときの因果なのかもしれません。
 
 遠藤周作が示唆した暗喩は、続編として位置付けられる「留学」や「沈黙」という作品に連なっているような気がします。

初校 2013/04/09
校正 2020/07/08
撮影 2013/02/03
コメント
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