一成が大声で泣く。
声は力強く、顔を真っ赤に染めて泣く。
最近は手足もつくようになってきた。そんな小さなことにも成長が感じられて嬉しい。
いつも泣き出すとすぐに抱き上げてあやすのだが、時には夫婦でゆっくりとその姿を眺めてみる時もある。
最近の一成は、何種類かの泣き方をマスターしたらしい。
１日に何度もあやす妻は、さすがにベテラン。妻が真っ赤な顔にくっつくくらい接近しては「涙が出てませんね～、一成さん」と優しく微笑みかける。
それだけで泣き止む時もあるから不思議な物だ。
最もそれだけでは泣き止まない事も多いのだろうが。
ゆたぽんママさんの「ゆったり生活」に涙の記事が出ていた、
トラバもリンクもあったのでどちらも読ませて頂いた。
どうやら生れてすぐの乳児は涙を流さないらしい。涙を見せる事でかまってもらえると判ってから、泣く時に涙を流すとの事らしい。つまり涙を伴う泣きは、高等な発達の証なのか。
私が一成の涙を始めて見たのは６月の下旬だったと思う。
妻がシャワーを浴びている間、寝室に寝かされた一成をそのままにして、私はパソコンに夢中であった。意識の向こうで一成の鳴き声が聞こえたのだが、育児に慣れていなかった私は、それが一成の鳴き声だとは何となく考えていても、「だからすぐに寝室に駆けつけなくては」とまでは思考が働かなかった。
一層上がるボルテージ。ふと「どうしたのだろう」「妻は何をしているのだ」と思い、ようやく寝室まで様子を見に行った。
誰も居ない真っ暗な部屋で一成が泣いている。そこで初めて私は自分の失敗に気が付いた。
目覚めた一成は、おそらく一度は普通に泣いたのだろう。おしめがグズグズに濡れていた。
泣いても、呼んでも誰も来ない、部屋は真っ暗、自分の声だけが聞こえたのだろう。その時一成が感じたのは何だったのか。
その日が始めて見た一成の涙であった。
学生時代のゼミ（発達教育学）で学んだ中に「赤ちゃんの感じる寂しさ」という物があった。
「乳幼児の感じる寂しさは、大人の考える寂しさとは全く別の物である。大人のそれにはある種の”趣（おもむき）”があるのに対し、乳幼児の感じる寂しさには不安感を伴う」とまあ、こんな行であったと思う。
結果的には、その不安感が連続すると、脳の成長ホルモンの分泌を妨げる為に、著しく脳の発達が遅れると結論付けられるのだが、きっと一成も呼んでも誰もこない事に不安になったのだろう。
その事件以来、私は一成の声が寝室で聞こえると、誰（妻）よりも早くすっ飛んで行くようになった。
おかげでかどうかは判らないが、一成は最近本当に泣かない。いや涙を流さない。
私は一成が「ギャー」と泣くだけでもう、オロオロしてしまうのだが、案外妻は余裕がある。
真っ赤な顔をして泣いているのは、泣いているのではなく「呼んでいる、訴えている」と言うべきなのだろう。
暇な時、かまって欲しい時は「呼ぶ」、おむつを替えて欲しい、お腹がすいた等は「訴える」と言う事なのだろうか。
そう考えると、妻の余裕の意味も理解できる。
赤ん坊の全員が涙を流す事が無いとは思わないし、科学的には証明しきれない事も多いと思う。
特に”こころ”に関する部分は、人間が踏み込んではいけない”聖域”であり、又人間には永遠に解明できない部分だろう。
どれだけ科学的に”涙の理由”を分析しても、おそらくそれは一つのパターンであって、全員が全員そうであると限らないと思う。人それぞれの、人生も人格も６０億通りあるのだから。
それに、涙の理由は文学的に考えた方がロマンチックでいいでしょう（＾＾
