夕焼け金魚 

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お嫁さん怖い⑦ 歳より若く見える嫁

2015-06-10 | 創作
古い友達が久しぶりに訪ねてきた。金魚の歳になると式というと葬式になるのですが、なんと結婚式を挙げたと言うのです。
若い奥様を連れてウキウキとした様子で会いに来た。
「いやぁ、この歳で恥ずかしいのだけど若い子と一緒にいると若返るよ」と笑って言うのです。
「そんな、若いだなんて、私もそんなに違わないのですよ」と言われたが、金魚が見ても若く見えました。歳を聞くと、金魚より一つ違いなのですが、見た目はずっと下にしか見えないのです。友達の嫁さんという認識がなければ「犯罪だろう」と言うほど若いお嫁さんに見えました。
終始ニコニコ嬉しいそうな顔をしていたのですが、お嫁さんが席を離れたときに急に真面目な顔をして「嬉しいのだけど、お嫁さんが実は怖いのだよ」と言うのです。
「夜が怖いなんて言うのじゃないのだろうな」とエッチな想像をして言ってみたのです。
「実はそうなんだよ」とこちらが次ぎに言う言葉に困る事を言うのです。
「お前が期待するような事じゃなくて、本当に怖いというか殺されるかもという怖さなのだよ」
こう真面目に言われても金魚はニヤニヤと「夜が怖いなんて、死ぬ程怖い目にあってみたいよ」と言っていたのです。
「そうじゃなくて、俺を食べたくなると言う事を言うのだよ」
「食べたくなる程、愛しているという惚気か」
「それなら良いのだけど、カマキリの雌は妊娠すると雄食べちゃうの知っているだろう」
「ああ、お前が得意にしている昆虫の世界では、雌が雄を食べるのは普通の事だというのだろう」
「ああ、あの昆虫の世界が人の世界にも広がっている様な気がするのだよ」と深刻な顔をして言うのです。
「お前の奥さんもお前を食べるというのか」
「ああ、あいつが妊娠したら、きっと俺は」と言って、後は言葉にならないのです。
結婚祝いの報告という楽しい話しなのに、別れ際にはもう今生の別れのような様子で別れたのです。
その友達が亡くなったという知らせが届きました。
あの結婚報告をしに来てから、1年程経った頃です。
本当に食べられたのかどうかは分かりませんが、あの奥さんならあいつも長生き出来ないとは思っていましたから「ああ、やっぱりな」と思いました。
帰るとき、彼の横で笑ってお辞儀したお嫁さんの赤い舌先が、二つに分かれて三十センチ程も伸びたかと思うと、慌てて引っ込むのを見ては、友達が長生きできるとは思えなかったのです。

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