「お早うございます」と言ってから、しまったと思いました。
上司の方だと思って朝の挨拶をしたのですけど、全くの人違いでした。
灰色のコートが上司のものと同じだったので、てっきりそうだと思ったのですけど。
びっくりしたような顔で、そのおじさんがじっと私の顔を見るのです。
ニコッと笑ってお辞儀をして、その場から離れてバス停の列に並びました。
心臓はバクバクして、喉もカラカラ。
朝から間違えちゃって、つい . . . 本文を読む
朝の公園を散歩するのを日課にすると、毎朝会う人と自然に挨拶するようになります。
ご夫婦連れの方もいますが、ほとんどが男の方ばかりです。
顔見知りになった人達が、いつも何人か連れだって同じ家に入っていくのを見かけたので「あの家には何かあるのですか」と聞いてみました。
「あそこは朝だけの珈琲店なのだよ」と答えられましたが、どう見ても普通の家です。
看板もなければ、珈琲店のようなドアもなく、普通の引き戸 . . . 本文を読む
中村の家に遊びに行くと、いつもニコニコ笑って迎えてくれるおばあちゃんがいました。
長谷川町子さんの「意地悪ばあさん」という漫画に出てくるような着物を着て、背中に手拭いをかけているおばあちゃんです。
いつも縫い物をしていて、目が悪いのか目の前に布と針を持ってきて縫っていました。
私達が行くといつも「うちの坊やと仲良くしてね」と言うのが口癖のおばあちゃんです。
でも、中村は大人しいおばあちゃんを馬鹿に . . . 本文を読む
私が通っていた小学校の話です。
学校にいつも黄色い帽子を被った男の子がいました。
朝早く行くと窓の外に立っていて、教室の中を見ているのです。
私が「おはよう」って挨拶しても笑って見ているだけで何も話しません。
でも、いつも朝学校に行くと窓の外に立って中をのぞき見ているのです。
「ねぇ、いつも窓の外に立っている子、どこのクラスの子か知ってる? 」って友達に聞きました。
「そんな子いる? 」
「ほら、 . . . 本文を読む
朝日と共に起きることは気分の良いものなのですが、予定した時間より早く叩き起こされると辛いです。
最近の私がそうです。
けたたましく、運動会の悪ガキに対する注意代わりの笛が、頭の上でピィー、ピィーと吹きまくられるのです。
とても寝ていられなくて仕方なく起きるのですが、まだ6時前なのです。
夜の遅い私にとって真夜中に起こされるようなものです。
おかげで昼間でも、ついウトウトとしてしまいます . . . 本文を読む
ジャガイモが一個、大きな皿にのせられて出てくると必ず過去のある出来事を思い出します。
小学五年の時に、東京・銀座で父と一緒にイタリア系のレストランに行きました。
コース料理を食べた後に、もう少し何か食べたいなぁと思いましたが、メニューはイタリア語で分かりません。父と二人で相談して一品では高価格の料理を指さして注文しました。
ピラフかパスタ系の少し食べ応えのある物を予想していたのです。
とこ . . . 本文を読む
小さい頃、家の近所にお化け屋敷がありました。
ツタの繁った洋館で窓がアーモンドを二つに割った上半分の型で、近所でも有名な家でした。凄いお金持ちだったのですが、お父さんが病気で亡くなると同時に寂れて、誰も住まなくなっていました。
玄関には大きな一枚板のドアがあって、子供心にも圧倒されました。
ある時、その家が夜中になると灯りがつくという噂がたちました。
暗闇の中で三角型の屋根が浮かび上がり、アーモン . . . 本文を読む
この街には、向山と言って市街地から川一本を隔ててみどり豊かな山がある。
市街地に近いので、何度も開発計画が起こったが、そのつどなぜか計画が中止になった。当時は山頂近くに遊園地があったので、麓からロープーウェーを作ろうとか、大規模な住宅開発もあったのだが、なぜか中止になってしまった。
理由は分からないが、今も開発されずに緑が残っているのはとても良いことだと思う。
ここは、桜並木の綺麗なところで地元で . . . 本文を読む
「霾」、この字読めるでしょうか。
「つちふる」と読むのです。「霾」とは、黄砂のことなのです。「霾」は俳句では春の季語にもなっています。
今年は、黄砂に極微細粒子が混じって、人の身体に悪影響があると言われています。
街が埃っぽくなりながらも、どこかしこで春の匂いもしてきます。
春の匂いと言えば、桜。
匂うばかりの桜とよく言われますが、満開の桜並木を歩いても、桜の匂いを嗅いだことはありませ . . . 本文を読む
何気なく見上げると、抜けるような青空が広がっていました。
池の縁に立って、水の底を覗いたような青空が、ビルとビルの間を埋めていたのです。
冬の灰色カーテンを開けると、眩しいばかりの朝日と共に、春の匂いがするような日だったのです。
暖かい陽差しに誘われて、いつもだとバスで通り過ぎるだけの街を歩いて帰ることにしました。
大通りのショーウィンドウ越しに季節を感じて、裏通りを歩いてみました。
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