夕焼け金魚 

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本マグロあります

2023-08-10 | 創作
スーパーの鮮魚部に行くと、本マグロありますと書いてあることがあります。
本マグロって本当に、本のマグロなのかなと思って聞いてみました。
「本マグロって、もしかして絵本」
「まさか、金魚さん。本物の本マグロですよ」
「本物のと言う意味の本なの ?」
「いえ、本状の肉が付いたマグロって意味なんですよ。知りませんでした」
「本状のトロと言うこと ?」
「ええ、最近のマグロは高速で移動するので、エラ呼吸だけでは筋肉の隅々まで酸素が供給できなくなってて、筋肉が本状になってその間に海水を取り込んで直接筋肉に酸素を供給するように進化しているのです」
「本当なの、凄いね。それで一匹に何冊ほどあるの」
「普通の大きさだと左右に二つずつなので計四つ。でも大きいのは片方に五つあって、左右で十もある大きいのもいますよ。十を超える大物は図書館マグロっていうんですよ」
「図書館マグロ、凄く大きいんだね」
「ええ、店頭に出してると傷みが早いので奥の冷凍庫に入ってますから、一度温かくなると売り物にならないので、お見せはできませんけど」
「ひとつというか、一冊売ってくれよ。いくらなんだ」
「一冊とは言いませんけど、昔からの言い方で一ブロックですね。実は袋とじみたいに両端がつながっているので一ブロックって呼んでます。今日のは一ブロック一万円です」
「袋とじなの」
「またまた、袋とじと言っても金魚さんの期待するようなのはありませんから。あくまで本状というだけで、文字とかは書いてありませんから」
「へぇ、一ブロック売ってくれよ」
店員が奥から持ってくると、冷凍されているので白い冷凍マグロのブロックにしか見えないのです。
大きさにしてA5サイズで、いっぺんが20×15センチほど。
「えっ、これが本当に本状なの」
「ええ、解凍しまたら、端を一カ所切っていただけたら本状になりますから。本状になったら、引っ張って頂けたらスッと抜けますから」と言うのです。
「本当かな」
「違ったら、お代は返しますから」と言われて家に帰ってきたのです。
楽しみにして、解凍しました。
解凍すると、本当に上下が繋がっていて、中が本状になつているのです。
本当に袋とじの雑誌みたいな感じ。
下だけを切るとパラパラと捲れます。
一枚取ってと思ったのですけど、取れません。
スッと抜けると言ったのに、しっかり綴じられていて抜けません。
仕方なく、破るように引っ張り出して、醤油を付けて食べてみました。
美味しいとまでは思えないのです。
脂の多いトロなのですけど、何というか古くさい。
腐っているとは言わないけど、少し古くさいのです。
スーパーに行って、先程の店員に言ったのです。
「スッと抜けないし、なんか古くさいぞ」
「えっ、本当ですか」と言うので持ってきた本マグロを店員に渡したのです。
店員が一枚とって抜こうとするが、抜けないのです。
匂いを嗅いで一枚口に含んだのです。
「あっ、これは申し訳ありません」
「そうだろう、古くさいだろ」
「まぁ、古くさいと言えばそうも言うのですけど、これは通の間では深みと言ってる味なんですよ」
「深み ?」
「ええ、たまになんですけど本マグロの中でも他より長生きする奴がいて、古本マグロという奴なんですよ」
「古本マグロ ?」
「ええ、これだと本当は1ブロック普通の奴より五割増しなんですよ。間違えてお渡しして、申し訳ないです。普通の本マグロ渡しますので、それでお許し願いしますか」
そう言うので許すことにしたのです。
まぁ、一万円で本当なら二万五千円する古本マグロと本マグロが手に入ったと思えば、クレームも儲けものかなと思ったのです。
家に帰って本マグロと古本マグロを食べ比べてみました。
深みと言えば、深い味かも知れないのです。
私には普通の本マグロの方が、深い味より新鮮な方が好みです。
まぁ、若い子と熟女といった感じでしょうか。
両方とも、袋とじなのですから。


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