夕焼け金魚 

不思議な話
小説もどきや日々の出来事
ネタ控えです

機織り蚕

2024-06-03 | 創作
変な物ばかり作っている動物学者がいました。
この人、遺伝子操作とかが得意で変わった動物を作るのです。
前にこの人は、動物を小さくする薬を作って注目された人です。
家畜を小さくして、飼料とかが少なくして、大きくなった頃、元の大きさに戻せれば、大儲けできると考えたのでした。
ところが、元に戻す薬が上手くいかなくて、家畜が小さいままで損した人です。
「金魚さん、面白い動物ができたので見に来ませんか」と誘われました。
「今度は何作ったの ?」
「今度のは、凄いですよ。誰にもできなかったことです」と言って見せてくれたのが蚕でした。
「何コレ、タダの芋虫」
「金魚さん、コレ蚕。糸吐く奴ですよ」と言って笑うのです。
「蚕見せられて凄いと言われてもねぇ」
「もちろん、タダの蚕じゃないですよ。こいつ実は、繭玉を作るのを忘れさせて、糸をそのまま吐く奴なんですよ」
「なんだ、糸吐くだけなら、たいしたことないじゃないですか」
「金魚さん、それは認識不足ですよ。蚕の糸から生糸ができているのは知ってますよね」
「それくらいは常識でしょ、僕でも知ってますよ」
「生糸は繭玉をほぐして、一本の糸をほぐしてから捩って丈夫な糸にするのですよ。最初から糸のまま吐いてくれたら、便利でしょ」
「それはそうでしょうけど、それだけで凄いとは」
「これだけでも凄い事なのだけど、じゃ、金魚さん。この蚕が生糸の糸をそのまま出すと言ったら驚いてくれますか」
「蚕が、生糸を吐くのですか。そのまま洋服とか作れる生糸を、それは凄い」
「やっと驚いてくれましたか。蚕に糸の依り方を教えてみたら、すぐ覚えちゃって、こいつら頭良いですよ」
「そんなに頭がいいのなら、もう一段上を目指しましょうよ」
「もう一段上と言いますと」
「糸だけじゃなくて、蚕に服を作らせなくっちゃぁ。蚕印の生糸の着物とか作らせてね」
それは私の悪い冗談のつもりだったのです。
なのにこの人、真に受けちゃって本当に蚕に着物を作らせるようになったのです。
可愛そうに蚕は自分で糸を吐きながら、短い足を器用に動かして、織機をガタガタ動かして、機を織っているのです。
可愛そうにも見えるのですが、何かユーモラスな動きで思わず笑ってしまいます。
「機織り教えたのか」
「ああ、でもこれは覚えの悪い奴で奥に所謂エリートがいるんだ」
「エリート」
「コレは凄いよ。俺もここまで凄い奴ができるとは、思わなかった」
と言われて奥の部屋に行ったのです。
自分が吐いた糸で機織るだけでも凄いのですけど。
奥の部屋で見せて貰った奴はなんと吐いた糸に色がついているのです。
「こいつはできた服に文字で刺繍ができるのだよ」
「本当にそれは凄い、文字まで覚えたのだ。今度こそコレで大金持ちだ」と二人で乾杯したのです。
ところが暫くして発明家の家に行くと、蚕が一匹もいないのです。
「どうしたのですか」
「いやぁ、これですよ」と言って私に穴の開いた繭玉を見せてくれました。
「あいつら、せっかく繭玉の作り方を忘れさせたのにどこからか蛾が入ってきて、蚕のままなのかと笑われたらしいのだ。それで、蚕のままではイヤダと言って蛾になってしまったみたいなんだ」
「えっ、そんなこと分かるの」
「コレ見ろよ」と言って渡された反物に青い糸で刺繍がありました。
反物には「蛾に笑われた、長い間お世話になりました」と刺繍されていました。
蚕も蛾に笑われるのは、蛾慢できないようです。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 俳句勉強中3 藤田湘子の型2 | トップ | 俳句勉強中4 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

創作」カテゴリの最新記事