しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「夏草の記憶」 トマス・H・クック 

2009年05月30日 | 読書
「夏草の記憶」 トマス・H・クック   文春文庫   
 Breakheart Hill      芹澤恵・訳

アラバマ州チョクトー。
町の医師、ベン・ウェイドは30余年前、1962年のハイスクールの頃に思いを馳せる。
それは転校生、ケリー・トロイにまつわる暗い記憶だった。
ベンとケリーは学校新聞『ワイルドキャット』の編集で身近にいる存在だった。
北部から来たケリーは人種差別問題も関心を持ち、新聞に載せようとする。
それは、南部の町ではまだタブーだった。
自分の知らなかった世の中に気付かされ、ベンはますますケリーに惹かれていく。
しかし、ベンは自分の思いを伝えることが出来ないでいた。
そして、ケリーはブレイクハート・ヒルで悲劇に見舞われる。



記憶3部作のひとつということで、「緋色の記憶」と形式も雰囲気も似ている。
自分が少年だった時にあった事件を、一人称で振り返っていく。
裁判の様子が織り込まれるのも同じだ。
今回は同級生同士の物語。
ベンが心に秘めていたものは、読者にこう想像させたいと思っているのとは違った。
それで意外性を引き出そうとしたのかも知れないが、少々不自然な気がする。
ちょっと策を弄し過ぎたのではないだろうか。
しかし、人物が違っただけで、ベンが付いた嘘は同じ結果をもたらしたということだ。
あまり謎めいて書かなくても、ベンやケリーの物語は面白かった。
その地域の歴史やその時代の考え方がよく書かれていて、興味深い。
奴隷制度を採っていた国の問題は日本ではあまり分からないけれど、日本にも差別問題はあった。
それに直接触れる機会がないが、もしかしたら知らないだけなのではないか、とこの物語を読んで思った。
表に出ないことを知ろうとする人と、当たり前に受け止めてしまう人。
そんな観点からも考えさせられた。
実際、ベンってどんな人間だったのだろう。読み取れないところがある。
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