世界的にインフレ傾向が強まる中で日本では、免疫を持っているかのごとく物価は落ち着いている。
WSJはWhy Japan appears immune to global inflation surge, so farという記事で日本でインフレが進まない理由とその問題点を指摘していた。
この記事をベースに株式投資戦略を考えてみることにした。
欧米では原油、穀物、マイクロチップなどの値上りでインフレが進行している。今年に入ってユーロ圏では物価が4.1%上昇し、米国では6.2%上昇した。しかし日本では消費者物価上昇率は前年比0.1%に留まっている。また価格変動が激しい生鮮食料品とエネルギーを除くと物価は前年比0.7%下落している。
原油価格や穀物価格の上昇は日本でも起きているが、欧米と日本の違いは、多くの企業が原材料高を吸収して、消費者にコスト高を転嫁していないことによる。
記事によるとイオンは、小麦粉、マヨネーズなどのプライベートブランドについては年内一杯は値上げしないと約束している。
無印良品を販売する良品計画は6月から11月にかけて約190品目について値下げを行った。
日銀の黒田総裁は10月下旬に「海外で懸念されている急速なインフレが日本で起きるリスクは極めて限られている」と述べた。
だがインフレが起きるリスクが抑制されていることは良いことのなのだろうか?
WSJの記事は、元日銀政策員会で審議委員を務めた木内登英氏(現在はNRI)の「企業の販売価格を変えないという経営スタイルは短期的なショックを防ぐという意味ではプラスだが、長期的にみると経済復興を妨げ、望ましい産業構造の変化を妨げるというマイナス面がある」というコメントを引きながら、日本の問題点を指摘する。
第三四半期の日本経済は、コロナウイルス前に較べて4.1%縮んだが、米国経済は1.4%拡大した。
商品価格の上昇が起きると企業はどの分野の需要が強くて、どの分野に投資をするべきか判断することができる。
労働市場が流動性に富んだ国では、需要が増えて人手不足に陥っている企業は高い給料を払って従業員を増やすことができる。
ところが手許現金が手厚い日本企業は、原材料価格の高騰を販売価格に転嫁せず、従業員の給料やボーナスを抑えることで乗り切ろうとする。また永年勤続が前提になっている日本ではコロナ禍の中でも失業率は3%程度に留まっていた。雇用市場は安定しているが、生産性の高い分野に優秀な人材が集まり、経済を活性化する動きが乏しいともいえる。
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このような環境下において個人投資家としてどのように振る舞えばよいのだろうか?
それは原材料等のコストアップを消費者に転嫁できない、つまり値上げができない企業への投資を見送り/抑制し、値上げができる企業への投資を増やすことだ。
値上げができる企業というのは、値段を上げても消費者がついてくるという強い企業だ。
投資先をどう選ぶかというと、簡単な方法は実際にインフレが起きている欧米の優良企業に目を向けることだろう。
日本企業は概ね価格転嫁には尻込みしているが、キッコーマンや山崎製パンのように値上げに踏み切ろうとしている企業もある。
高いシェアやブランド力を持ち、値段を上げても顧客を失わないという自信を持っている企業をピックアップすれば、日本企業にも買い銘柄はありそうだ。原材料高という疾風は勁草を知る絶好の機会だろう。