インドのことを眠れる巨像といい、中国を眠れる獅子と呼ぶ言い方があった。最近は巨像も獅子もしっかり起きているようだ。ただし世銀の最新の研究によると巨像のサイズは思ったより小さいらしい。もっともこれをもって虚像というのは言い過ぎだろうが、タイトルは少し大袈裟に書いてみた。
FTによると世界銀行は今週中国とインドの経済規模は従来考えられていたよりも4割方小さいと発表した。世銀は146カ国の1000項目の商品とサービスの価格を比較することで、購買力平価を計算した。購買力平価は為替レートよりも、相対的な生計費を測定する上で有効な物指と考えられている。新しい購買力平価で測定すると世界の総生産量に占める中国のシェアは10%、インドのシェアは4%になる。 また物指が変わったことで中国の貧困層が数億人増えることになったということだ。世銀の定義では一日の生計費が1ドル以下の層を貧困層という。今回の購買力平価が市場の為替レートを下回ったことで、1ドル以下の貧困層が増えたということだ。換算レート一つで日本の総人口を上回る人が貧困になったりならなかったりするのも変な話だ。
話は飛ぶが昨日卒業した大学の山岳部OB(東京支部)の忘年会があった。そこで最近チベット方面に現役部員が偵察登山に行った時のスライドを見た。スライドには中国奥地の状況が写っていた。裕福には見えないが一日1ドルの暮らしよりは豊かそうだ。もっとも自給自足の物品も多いのでこれらは購買力平価の計算にどのように はねるのか興味があるところだ。人々の豊かさを物価の比較に基づく収入だけで測ることは難しい。毎日3時間も満員電車で通勤する生活をもって豊かとするのか、テントを出たところが職場の遊牧生活を豊かとするのかは簡単に判断できる問題ではない。
さて中国とインドの経済規模が思ったより小さいと世界が認識するとどのようなことが起きるのだろうか?
まず米国は2012年頃には中国が経済規模で追いつくのではないか?という恐れを抱いていたがそれがかなり先に伸びたので、緊張を緩める。
一方米国の景気後退が中国・インドに救われるというデカップリング派には不利な材料だろう。中国はこれを奇禍として、元高議論に抵抗するかもしれない。「能にして不能を示す」(孫子)という権謀実数に長けた国だけに面子よりも実を取るかもしれない。
いずれにしろちょっと興味がある数字がでたものだ。