金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

大量保有報告ルール変更に反対の声

2006年02月21日 | 株式

ライブドアや村上ファンドの問題に端を発して株式の大量保有報告ルールを変更しようという動きがある。これに対して外人投資家等が大反対をしていると記事をウオール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。大量保有報告ルールの変更は外人投資家の日本株買いにブレーキをかける可能性があるだけに注目しておきたい話題だ。

まず大量保有報告ルールとは何か?現在証券取引法第27条の規定で「上場又は店頭登録している会社の株券等を保有する者については、株券等保有割合が5%を超える場合に、大量保有報告書の提出が必要になる」というもので頻繁・大量に株式を売買する証券会社・銀行・信託会社等については特例報告ということで3ヶ月毎の報告となっている。今回金融庁が考えている変更案はこれを2週間程度に短縮しようというものだ。これは一見証券市場の透明性を高めるため有効な策とも見えるが機関投資家側から強い反対がある。以下ウオール・ストリート・ジャーナル紙の主旨を紹介しよう。

  • 報告ルールの変更提案の背景は、日本企業が敵対的買収やアクティビストのファンドに対する懸念を増加させているからだ。幾つかの企業の経営陣は村上ファンドから警告を受けている。変更提案の支持者は村上ファンドのようなファンドは大量報告の特例措置を利用し、油断している会社の株を3ヶ月間の間に買い上げていると言う。
  • しかし改正提案は金融サービス業の経営層に大きな騒ぎを起こした。彼等はこれは数少ない特徴的な買収ファンドに対する反射的な対応だと考える。株を購入しても発行会社の経営を意図しない機関投資家にとって事務作業が増えるからである。更に機関投資家は新しいルールがポートフォリオの中身を異常に早い段階で開示することで運用成績を悪化させる懸念を表明する。というのは機関投資家が売買等のポートフォリオの中身や手口を早い段階で開示すると手口を真似る投機家が出てきてその結果運用成績が落ちるからである。これは特に流動性が低い中小型株の場合顕著である。
  • 野村資本市場研究所の大崎氏は「日本企業は近年企業統治面で大きな改革を行なってきたが、このルール変更は少し後戻りだと言わざるを得ない」「この変更は他の投資家のコストにおいて株式発行企業が敵対的買収を抑えようというものだ」と言う。
  • ルール改正に対する批判者は、新ルールが海外の大型ファンドの日本株投資を抑制する可能性があると言う。外国ファンドが日本から撤退することはないにしろ、彼等は所有株を発行株数の5%以下に留めようとするかもしれないがこれは全体として取引量を低めることになる。
  • 近年の日本株ブームの最大の牽引車が外人投資家であるので、外国勢の投資が減少することは大きな影響を与える可能性がある。因みに昨年の国内3取引市場のおける外国勢の取引高は45.1%を占めた。
  • 特に米国の投資家が声を大にして新しいルールに反対している。彼等は日本の現在の開示規則が既に他の国の規則よりはるかに厳しいものだと言う。米国では機関投資家は年1回開示をすれば良く、欧州では10%を越える株式を所有する場合のみ開示すれば良い。
  • 当該法案については通過することが広く予想されているが、在日米商工会議所を含む強い批判がある。同会議所は最近の紙面で新しいルールは「不幸にして不必要な」結果を生むだろうと述べた。また同商工会議所は「報告期間の短縮は日本に対するポートフォリオ投資を減少させ日本企業にとって重要な長期資本の資源を減らす可能性が高い」とも述べている。また日本の投資顧問業界も新ルールに反対している。

さて私の関心事は2つある。私は大量保有報告の短縮は不要という考えに立っているが、日本の政治家やマスコミがこの問題の本質をどこまで理解した上で正しい判断を下せるかどうか?ということが一つ。つまり当局が資本市場のメカニズムを理解しているかそれとも一部の買収ファンドの飛び跳ねた動きを過大に問題視するかどうかという踏み絵にもなる。

次に法律改正となった場合の株式市場に対する影響である。簡単にいうと発行残高の少ない中小型株や新興市場への資金流入は細ると考えても良いのではないか?また金融機関の株もかなり外国ファンドが保有している。これからは外人投資家比率の推移は注目点だ。

それにしても米国は「金融立国」を標榜している訳だが、この一連の動きを見ても資産運用会社等の金融機関と商工会議所や政府それとジャーナリズムの連携は見事である。米国の主張の良し悪し~今回私は良いと思うが~は別として日本も見習うべきところがあるのではないか?

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