追憶の彼方。

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慈善資本主義…(3)

2017年09月07日 | 政治・経済
巨額の寄付で社会を変える「慈善資本主義」、そこにはカーネギー達が行ってきた単純な慈善事業から一歩進んで、自分達がビジネス成功の過程で習得した経験・知識・ノウハウをフルに活用し、より効率的・広範囲に社会改革や人類の福利向上を図ろうというのである。
然しそこにはビル・ゲイツやジョージ・ソロス達超富裕層の独善性が透けて見える。

貧困問題に取組む国際NGO「オックスファム」が指摘するように労働者に正当な賃金を払い、正しく納税せよと言う主張の背景には慈善資本主義は社会の格差を肯定し固定化乃至助長するのに繋がる。寄付をすれば格差社会は許容されるのだというのは強者の論理である。
選挙で選ばれた国民の代表が税を通じて富の再分配を行うと言う社会の構造が損なわれ、強者の目の届かないところ、強者の気にいらない分野には支援が届かないと言う危険性が伴う惧れもある。更にはNGOやその他の市民活動が支えてきた社会の秩序維持、社会の変革も力を削がれ消滅を辿るだろう。

アメリカの場合は慈善資本主義が税制に大きな歪みを生じさせている。
J・ソロスの所得税率は15%程度で限界(最高)税率39.6%とは程遠い。彼は自分の秘書より税率が低いのはどこか間違っていると正直に述べている。B・ゲイツも似たようなものだろう。その大きな理由は慈善事業に寄付をすると税金の控除を受けられる点にある。
米国連邦税法上、特定の米国内の宗教、慈善、文化、教育団体が寄付金の所得控除適格と認定されており、それら団体への寄付金が所得から控除が可能となる。
(日本にも寄付金の税額控除・所得控除の制度はあるが対象となる寄付の相手が政治団体等限定されて居り,且つ控除金額にも限度がある)
例えばJ・ソロスが100万ドルを慈善事業に寄付した場合限界税率を40%と仮定すると彼の実質負担は60万ドルとなり残りの40万ドルは税金から、即ち実質的には納税者が負担したことになる。
アメリカでは長期(一年以上)保有の株式の売却益や配当金は所得税10%から15%の税率適用の納税者は非課税扱いになる。(25%、28%、33%、35%にカテゴリーされる納税者には定率15%の税率、39.6%にカテゴリーされる高所得者には定率20%の税率が適用される。)
超富裕層は寄付を通じて所得税率を下げることにより規模の大きいキャピタルゲインや配当の税金を免れているのである。
彼等は節税を行いながら慈善事業への寄付者としての名声を得、格差社会への非難をも回避していると言われても仕方がない。

アメリカの経済学者によれば納税者は超富裕層の寄付や慈善事業に無理やり付き合わされているのは不合理だと述べている。
米国の寄付金の行き先を見てみると、宗教団体への1000億ドル(全体の33%)というのが圧倒的に大きく、教育の400億ドル(13%)がそれに次いでいる。
イスラム教徒や仏教徒、或いは原理主義的キリスト教に反感を抱く人達までがそのようなキリスト教の団体への寄付に知らぬ間に付き合わされている。教育に付いても同じ、彼等の出身校や彼等の子弟が通う学校への寄付に付き合わされているのである。

この様な矛盾点を正そうとオバマ前大統領は、富裕層の課税強化や法人税制の見直しを毎年のように主張してきたが、議会多数派の野党・共和党による反対で実現出来なかった。
オバマ氏が提唱してきた税制改革は(1)富裕層の資産売却益に対する課税強化(2)金融機関への新税(3)法人税率を下げるのと引き換えに企業が海外にためる留保利益に課税強化――に大別できる。 とくに力点を置いたのが、経済格差の是正だ。中低所得層には育児支援を狙った手厚い優遇税制を敷き、財源は富裕層増税と金融機関への課税強化でまかなうと言うものである。
然しクレバーなオバマ大嫌いのトランプ政権、その中心は金融機関出身の超富裕層、金融改革は逆方向に動き始めている。

共和党が推進する税制が格差社会の元凶である。
寄付をすることにより所得税率を下げ投資促進の美名の下に長期キャピタルゲインタックスを無税化することにより富裕層が益々富を得る。
トランプは更に法人税率の引き下げを打ち出している。これにより株価が上昇し、配当が増える、格差拡大以外の何ものでもない。
トランプに票を投じたプアー・ホワイト達、やっと彼の欺瞞に気が付き始めたようだ。

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