これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

パン 対 ハードカバー

2009年06月21日 21時47分33秒 | エッセイ
 職場の近くに、美味しいパン屋さんがある。食パンと菓子パンのセットを販売しているので、同僚8人でそれぞれ注文し、毎週木曜日に届けてもらうことにしている。
 しかし、このパンを、職場から一時間かけてわが家に持ち帰ると、大抵どれかがつぶれてしまう。犯人はハードカバーの本だ。今読んでいる、小川糸さんの『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』は清らかで乙女チックな恋愛小説だが、パンへの攻撃は容赦ない。食パンがやけに細長くなったり、菓子パンがペタンコになったりする。また、電車の混雑もハードカバーに味方し、パンの変形を手助けする。

 なんとか、無傷でパンを持ち帰る方法はないものか……。

 それは私の密かな悩みだった。
 文庫本を読んでいるときは、パンがほとんどつぶれずにすむが、旬の本は攻撃力の大きなハードカバーしかない。木曜日だけ続きを読まないというわけにもいかないし、常にひしゃげたパンになってしまった。

 先だっての木曜日は、食パンの代わりに、バターロールとクロワッサンが入っていた。私はクロワッサンが大好きだ。ハムと玉子をはさんで食べるもよし、ジャムと生クリームをサンドするもよし。机の上に置いておき、帰り支度をするときにバッグにしまおうと思っていた。
 いざ帰ろうとしたら、内線電話がかかってきた。大した話ではなかったが、電話の内容に気を奪われ、大事なものを忘れて職場を出た。
 最寄り駅に着き電車を待っていると、忘れ物に気がついた。

 あ、パンがないっ!!

 ものすごくショックだった。生ものではないから、一日くらい放置しても食べられるとは思うが、誰もいなくなった職員室はゴキブリの天国らしい……。たかられたらどうしようと青ざめる。しかも、この湿気でカビが生えるかもしれない。
 どよ~んと暗くなったとき、頭の中で豆電球がパッと点灯した。

 そうだ、たしかまだ、ゆき子ちゃんが残っていたはず!

 私はダメ元で、同僚の年下女性、佐藤ゆき子ちゃんにメールを送ってみた。彼女は職場を出る前に、必ずメールチェックをする。運がよければ間に合うかもしれない。

「パン忘れちゃった~! もしご迷惑でなかったら、冷凍庫に入れておいてもらっていいですか~?」

 パンは冷蔵庫だと乾燥してしまうので、冷凍庫で保管するのがいいらしい。しばらくして、ゆき子ちゃんから返信がきた。

「ギリギリ間に合いました! ちゃんと冷凍庫に移しておきましたから、ご心配なく」

 その日は、結局ツイていたのか、ツイていなかったのかわからなかったが、おそらく後者だったようだ。
 翌日、カチンコチンに凍ったパンを、今度は忘れず持ち帰った。バッグに入れるとき、いつもと違って硬かった。これなら、ハードカバーに押しつぶされることもないだろう。

 そっか。これからも、いったん冷凍庫で凍らせてから持ち帰れば、変形することがなくなるんだ……。

 何てナイスなアイデア!!
 
 電車の中で読もうとハードカバーを出したら、パンの冷気でひんやりしていた。寒くて震えていたのかもしれない。
 
 本日の勝負、パンの勝ち~!



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コメント (14)
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