いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
高校生のときは文系クラスだったので、理科は「化学Ⅰ」「生物Ⅰ」を選択していました。そのころから生物はそこそこ得意で、今でも「生物学」については結構関心があります。
本書は、ブルーバックスの新刊ということもあり、さっそく手に取ってみました。
最近の話題を踏まえたテーマの選択は、私のような “生物学素人” にはありがたいですね。
それそれの章ごとに興味深い話は多々ありましたが、その中から特に印象に残ったものをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、「呼吸と発酵」。「呼吸」の基本で私が誤解していたところです。
「呼吸(酸素を利用した好気呼吸)」は「解糖系→クエン酸回路→電子伝達系」というステップでATP(アデノシン三リン酸)を生成します。
(p61より引用) ここで注意したいのは、クエン酸回路までの呼吸反応の過程では「まだ」酸素が登場していないということだ。 つまり、二酸化炭素の排出は、酸素が反応系に入るよりも「先に」起こるのだ。私たちは「酸素を吸って二酸化炭素を吐く」といった表現から、あたかも吸った酸素に炭素がくっついて二酸化炭素に変化したかのように思いがちである。実際、まだ呼吸反応の詳細がわからなかった時代に、フランスのラヴォアジェ(1743-1794)は「酸素を消費して二酸化炭素を放出する」という共通点に着目して、「呼吸は本質的に燃焼と同じである」と発表した。しかし、燃焼では酸素に直接炭素が結びついて二酸化炭素が生成されるのに対し、呼吸で放出される二酸化炭素の酸素原子は私たちが吸い込んだ酸素ではなく、ブドウ糖や水に由来する点で、異なっている。
ミクロなレベルでは、“とても複雑な反応の連鎖” でエネルギーの生成がなされているのですね。
もうひとつ、“マクロ的視点” の話題、「森の意義」について。
(p280より引用) 地球上にはさまざまな生態系があるが、森林生態系こそ最も複雑で成熟した自然である。「複雑」というのは豊かな生物相(多様性)と、それを可能にする高い生産力をもつという意味で、豊富な生産者(緑色植物)が築く広い底辺の上に生態的ピラミッドが何段も乗っている、まさに「量」が「質」を支える構造だ。また「成熟した」というのは遷移という気の遠くなるような長い時間を経て到達した安定という意味で、私たちが森を見るときその背後には数百年から数千年という時間が込めら れている。
そして、恐ろしいことは、その営々として積み上げられた時間の堆積が、一瞬の人工的営為で破壊されてしまうという今の現実なのです。
さて、本書を読み通しての感想です。
著者の相馬融さんが「あとがき」に、本書の構成(目次立て)の骨子をこう記しています。
(p332より引用) 一応空間軸という視点で、小さいものから大きいものへと配置し、それぞれの中で時間軸を取り入れて語り、最後に時間軸をまとめて俯瞰するという感じである。
まさにこの目次が示しているように、本書の魅力は、生物学への誘いとしての「体形的な網羅性」にあると思います。
私にとっては、はるか昔の学生時代の記憶を思い起こしつつ、最新の研究成果の一端に触れるという貴重な体験と新たな刺激を得ることができました。
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