少し前に、本書を原作として作られた映画を観ました。ほどよい物語の起伏が心地よくて、とても良い作品だと思いました。
観終わって思ったのですが、この作品の舞台がピアノコンテストなので、当然のことながら、ピアノを演奏するシーンやその曲自体が映画のなかでは大きなウェイトを占めていました。そのあたり「活字」ではどう表現されていたんだろうと。ということで、改めて原作を読んでみることにしました。
映画を先に観ているので、ストーリー自体はすでに頭に入っています。なので、「なるほど、原作はこうだったのか」「映像ではあんなふうに描いたのか」、そういった気づきが大きな楽しみでしたね。
もちろん映画化に際して原作の幾何かには手を入れられるのですが、本作品の場合もある程度の短縮に加えプロットやストーリーライン自体にもかなりの変更がありました。ただ、そういったプロセスにもかかわらず、出来上がった映画は、原作のテイストを大切にした程よい距離感はキープされていたように思います。
さて、肝心の小説の方です。私は、こういったテイストの小説はあまり読みません。ましてや、本書のように直木賞と本屋大賞を同時に受賞するような話題作はかえって避けていたタイプです。
今回読んでみた感想ですが、ネタバレしない程度に簡潔に言えば “とても爽やかな心地よい物語” でした。評判になるのも素直に納得できます。
映画の方は「音楽を映像化する」のが一つのポイントだったと思いますが、こちらはうまくストーリーに乗せさえすれば「演奏シーン」と「音響効果」でかなりしっかりと表現できるでしょう。他方、「音楽を文字化する」というのは、これは難しいでしょうね。高難度のチャレンジでしたが、恩田さんの楽曲に対する豊富な知識と多彩かつ繊細な表現力で見事に成功させていました。
まあ、正直なところ、コンテストの進行に合わせた一次・二次・三次・本選の演奏シーンの描写は、流石に後の方になるにつれ、重畳的な表現も目に付き、冗長な感覚を抱くのは否定できませんでした。このあたり、物語の密度も考えると3割方ボリュームを絞ったぐらいの方が読み応えは増したのではないかと思いましたが、これは読者の感性や好みの問題でもありますね。
ただ、繰り返しになりますが、本作品は「小説」も「映画」も、とても素晴らしい出来だったのは間違いありません。ピアノコンテストという舞台設定と主要な4人の魅力的な登場人物のプロットが成功の決め手だったと思います。
原作を読み通した今、もう一度機会があれば映画も観直してみたいですね。