久しぶりの鷲田精一氏の著作です。
本書は読売新聞に連載されている「人生案内」の問答を再録したものを幹に、エッセイ的な小文を加えたつくりです。
そもそもが新聞の「読者からの相談投稿」が起点なので、それこそ様々なジャンルの俗事が取り上げられています。
ただ、相談内容と鷲田氏の回答とが“ピッタリ”と対応しているものは稀ですね。ほとんどが確信犯的な“すれ違い”です。それは、ひとつには、回答者がより本質的な問題を認識して、それに対する処方箋を提示しているからでしょう。
鷲田氏が人生相談の回答者を引き受けた経緯については、最終章の「二枚腰のすすめ」の中にこう書かれています。
(p166より引用) 私は若いころから「哲学」を勉強してきました。・・・問題の立て方、そして考え方の道筋を、いろんなタイプに分けて検証してきたのが「哲学」です。
だからそれを学んできた者として、出番があるかもしれない。それは問いとして正しいか? そこにはなんらかの思い込みが先にあるのではないか? 問いはもっと別なふうに立てられるのでないか? そういうことなら悩みを抱え込んでいる人たちとともに考えられるのではないかと思ったのです。ちょっと考え方を変えてみませんか、というわけです。
ここから思うに、鷲田氏の回答のズレの多くは「問いの再設定」によるものなのでしょう。
しかしながら、相談者からみて、「悩んでいるのは、そんなことじゃないんだ」「『考え方を変える』とか『アングルを退く』とか言われても・・・」と返されるケースも間違いなくあるように思います。
(p153より引用) 他人に認めてほしいと思うより、自分が納得できる生き方を考えることのほうが先ではないですか?
といったアドバイスがいくつかの相談に対する回答として示されていますが、これは難しいですね。むしろ、それができないから悩んでいるのでしょう。
大変です、人生相談の回答という仕事は。私には絶対無理だと痛感しましたね。