本書の後半は、著者がグーグル日本法人社長時代を語った章です。
その中から、いくつかの気付きを書き止めておきます。
まずは、よく言われている「グーグルのビジネスモデル」についてです。
(p195より引用) グーグルの基軸となっているビジネスモデルは、アドワーズ(AdWords)、アドセンス(AdSense)と呼ばれる仕組みが生み出すオンライン広告である。・・・
・・・グーグルは、ここで潤沢な資金を稼ぎ出し、それをインターネットやクラウド・コンピューティングの発展のために惜しみなく再投資している。そしてネット環境やクラウド環境を進化させることが、インターネットユーザーやトラフィックの数をどんどん増やし、結果的には自分達の広告収入の増加に還元される、という大きくて磐石な循環系を成立させている。
通常の会社は、その事業規模や範囲が拡大してくると「事業部制」に移行します。しかし、グーグルは「オンライン広告事業」を「コアコンピタンス」と定め、他の事業はそれに従属させました。
(p197より引用) もしもグーグルが、オンライン広告事業部、アンドロイド事業部、グーグルマップ事業部などと、並みの会社のように全体を細かく分断してそれぞれの採算モデルを適用していたら、アンドロイドの開発も、ストリートビューの実現も到底不可能であろう。アンドロイドやクロームOS・・・のようなプラットフォームは短期間に広く行きわたることが重要で、ここで採算を気にして有料化などを行ってしまえば普及の大きな障害ともなる。
また、ストリートビューなどは到底コストに見合わない活動として承認されないであろう。
収支を度外視した事業に対して、収支責任を負わされた事業が太刀打ちするのは、やはり無理です。経営資源の供給源となっている事業にダメージを負わせない限り、枝葉は繁茂し広がっていきます。
もうひとつの気づき、最近注目されている「クラウド・コンピューティング」の意味づけについての著者のコメントです。
(p221より引用) 私は、企業がクラウドを導入する本質は、IT投資の削減などということだけではなくて、社内のコミュニケーションや情報シェアを促進して経営のスピードを上げる、という点にあると考えている。
そういう意味では、クラウド・コンピューティング環境の企業内導入に際して、一番重要なキーワードは「カジュアル」ということではないだろうか。ここでいう「カジュアル」とは、フランクで透明性が高く、フットワークが軽くてノリが良く、どんな意見でもきちんと聞いた上で、誰に対しても正々堂々と自分の意見を主張することを指す。
クラウド・コンピューティングに関しては、ファシリティ面からも興味深い示唆がありました。
データセンタ運営についての発想の転換です。
(p244より引用) サーバを構成するCPUやハードディスクなどのハードウェア部品も、一定期間で壊れることを前提にし、冷却などせずに壊れた部品は新しい物と置き換えていくという割り切りで作る
急速なテンポで向上するハードウェア性能を活用するとともに、データセンタ設備の冷却のために増加し続ける電力需要を抑える方策としては、一考の価値がある指摘です。
さて、最後の気づきとして、「グーグルのFind it、Fit it」について記しておきます。
(p244より引用) グーグルでは、何かの問題に対応する時に、とりあえずのパッチワークをやる、という発想があった。・・・大上段に振りかぶって、製品開発のプロセスそのものを抜本改善しよう、そのために全社プロジェクトを結成しよう、などというようなアプローチとは対極にあるスタイルであり、ネット時代の割り切った問題解決手法として、他企業にとっても大いに参考になると思う。
抜本改善に着手しているうちに、その製品・サービスは過去のものになるというのが今の事業環境です。
変化の「スピード感覚」を誤らないようにしないと、折角の地道な努力が、不幸にも「滑稽な無駄骨」になってしまいます。
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