本書は、常識的発想から脱却しブレイクスルーを果たした多くの企業の「実例」が挙げられています。
まずは、こういう本の常連のキヤノンです。
紹介されているのは、キヤノンがゼロックスの牙城だった普通紙コピー機(PPC)市場に参入しようと決めたときの論理です。
ものすごく大胆な常識破壊の理屈?です。
(p91より引用) 圧倒的に強い競合がいるからこそ、他社が参入しにくい。そこにうまく入り込めれば、かなりよい市場地位を享受できる、はず。
結果、キヤノンは大成功を収めましたが、実は、「常識破壊」のみがKSFではありませんでした。
キヤノンは、元々の強みや新たに獲得した強みの源泉となった「総合的研究開発力」を有していたのです。そこが根本的に違います。
そのほかにも、自転車のシマノや電子辞書のカシオ、少年ジャンプの集英社等、興味深い事例がいくつも紹介されています。
あと、本書の中でなるほどと思った部分を2点ほど。
1点目は、不確実性の高い「カオス的」状況における対応方法です。
著者は、以下のような方策を薦めています。
(p41より引用)
①当たらない推測に頼らず
②実際に得られる情報のみを使って
③事後的に対応する
何が起こるか予測ができない世界では、「常識的な発想」に基づいた行動は、無益であるばかりかマイナスでもあると言うのです。
あらぬ方向に走り出すよりは、リアルタイムの状況把握に基づくきめ細かなアクションの方がリスクの少ない対応ができるのです。ただ、この場合は、常に変化を受信し続け、それに即応し続けなくてはなりません。
感度と機敏さがポイントです。
2点目は、「聞き手のキャパシティ」についてです。
(p258より引用) 相手の「一度に聞くキャパシティ」は60~90秒。それ以上になると、こちらが発する言葉を吸収しきれなくなり、集中力も一気に低下する。だから一つのことを「興味付け」「前提説明」「事象説明」「本質説明」と進めるのに、最大90秒で終わらせる。
こういった事柄は、「コミュニケーション」の奥義であると同時に、思考自体を突き詰めるのに丁度良い。
これは、私自身、心しなくてはなりません。
最近、とみに話がくどくなってきたと自覚しています。自分の頭が整理されていない証拠です。
この本からは、いくつかの気づきと刺激を得ましたが、やはり、最大の刺激は、サブタイトルにある「空気はなぜ透明か」との問いに対する著者の答えでした。
「生物の目がそのように進化したから」
これには参りました。
そもそも空気が透明なのではなく、「空気が透明になるよう生物の視覚器官が変化した」というのです。
「視点・視座の転換」と簡単に言いますが、おいそれとできるものではありません。
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観想力 空気はなぜ透明か 価格:¥ 1,785(税込) 発売日:2006-10-20 |