Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.492:『かかわり方の学び方』西村佳哲著(筑摩書房、2011年)

2013年11月17日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊


かかわり方のまなび方

表紙に記載されている著者の肩書は「働き方研究家」ですが、著者紹介では
プランニング・ディレクターとなっています。コミュニケーション・デザイ
ンの会社の代表で、美大でも教鞭を執られている、広い意味でのデザインの
専門家です。

本書はそんな著者が、人と人とのかかわり方について自身の探求を記した、
ルポのような形式の本です。かかわり方の専門家であるファシリテーターた
ちへのインタビューや、ワークショップの本質についての考察など、「教え
ること」に興味がある人には必読の一冊といえます。

さて、本書がユニークなのは、ファシリテーションやワークショップの正し
いやり方を説明した教科書でも、それらを素晴らしいものとして礼賛したも
のでもないことです。先に「探求」という言葉を使ったとおり、ファシリ
テーションとは何か? ワークショップとは何か? について著者が迷って
いる過程を記述したところに、本書の面白さがあります。

そもそも人と人とのかかわり方が、そんなに容易なわけはありません。ファ
シリテーターがうまく切り回せば建設的な意見や、創造的なアイデアがじゃ
んじゃん湧いてくるわけではないでしょう。先生が生徒に、上から目線で
「教える」のをやめて、「引き出す」ようにアプローチを変えれば万事解決
するというわけでもないでしょう。

ただ、その人の人としての「あり方」が、対峙する相手に対して、何らかの
変化を促す可能性があることは、かすかな希望だといえます。

本書には「まえがきの前に」という箇所がありますが、ここで取り上げられ
ている自殺防止活動をされている77歳の女性のインタビューは、私1.0には
かなりショックでした。詳しくは本書を読んでいただきたいですが、積極的
傾聴(アクティブ・リスニング)という言葉の本当の意味(の断片)が、そ
こには見え隠れしています。真実の共感、正しく相手によりそうこと、そし
て、そのために自分に正直であることが、どういうことで、時にどのような
効果をもたらすのかがリアルに迫ってきます。

この女性のパートナーは牧師さんとのことですが、本書に登場したファシリ
テーターの中にも牧師さんや宗教系大学の卒業生が若干ながらいたことが印
象的でした。先に「あり方」について述べましたが、聖職者になる過程では、
少なからずこの「あり方」を熟成させるトレーニングがなされているのでは
ないかと私はにらんでいます。

すかっとした回答のない本書ですが、人としての「あり方」(の一部)は本
書のような本を通じて、迷いや惑いに苦しむことでも熟成されていくのかも
しれません。<文責:マツモト1.0>

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