Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.496:『職場が生きる、人が育つ「経験学習」入門』

2014年02月04日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊

『職場が生きる、人が育つ「経験学習」入門』 松尾 睦著 
ダイヤモンド社刊2011年

年甲斐もなく泥酔し、ビルの壁に寄り掛かっていると、すぐ横で恰幅のいい
女子の携帯の声が聞こえてきます。
「今から?バイト。ガールズバー。うん、簡単、あれってコンセプトは恋人
じゃん。昨日もさ、勘違いしたオヤジがさ、、、」。
いきおい体内の全アルコールが分解されました。そう、単身生活でその種の
店の小粋なおねーちゃん達と仲良くなる機会が爆発的にふえていた私は、そ
の電話に心当たりがあったのです。で、彼女らは時折LINEでコミュニケーシ
ョンをとってきます。いえ、「美味しい物食べて、そのままお店に」、とい
う伝統的な営業=「同伴」ではありません。そんなものに騙されるほどpure
な私ではありません。

彼女らの用件は決まって「相談」。キャリアとか、健康とか、友人と行く旅
行への助言とか、、、。つまり、私の守備範囲ばかりです。得々とした気分
で相談に乗る。「お店に来てね」もないかわり、幸か不幸か皮膚接触もあり
ません。んだがしかし、乞われてもいないのに、ありもしない幻想にかどわ
かされ、私は連夜、その店に向かうのでありました。
そう、私は、ビルの谷間の携帯女子のオヤジ客さながら、何人ものおねーち
ゃんの疑似恋人寸前技術に翻弄されていたのです。日本語で言うと「学習能
力がない」となります。

今回の1冊は、こうした経験を効率的に「学習」に至らしめるためのバイブ
ル。著者はこのテーマの第一人者、北大の松尾睦先生です。ここ数年の、成
人教育シーンでのKolbの経験学習サイクルの普及はひとえに松尾先生のご尽
力によるところが大といえましょう。

もちろん経験学習はKolbの、あるいは松尾先生の専売特許ではありません。
「解凍-変化-再凍結」で知られるクルト・レヴィンの最盛期は1940年代です
し、デューイの「経験と教育」は1938年上梓です。でも、その半世紀以上の
時を超えて今、日本で経験学習モデルがこれほど見つめられるのは2つの理
由があると考えます。1つは上意下達とか愚直だけでは組織でやっていけな
いこと、もう1つはモデルが実用ツールとしてこなれていること、です。

本書は、その、実用への「こなれ」の極みと言えましょう。内容は序章+6章。
経験学習の概論を平易に触れつつ、大きく、経験から「(自分が)学ぶ
力」「(部下・後輩を)学ばせる力」を解いていきます
そして、「とりあえずの一人前」の壁を超え、真の中堅・熟達者への道へと
誘ってくれます。

ご存じ経験学習サイクルは、

「具体的経験」
⇒「内省(内省的観察)」
⇒「教訓抽出(抽象的な概念化)」
⇒「教訓を新しい状況に適用(積極的実験)」
(( )内は1984Kolbのオリジナル)

です。

本書では、松尾先生が豊富な研究から導き出された、このサイクルをまわし、
成長のつなげるための5つのポイント(3つの力と、2つの原動力)を詳述
する形で進んでいきます。

3つの力とは「挑戦する力」「振返る力」「楽しむ力」。2つの原動力とは
「(仕事への)思い」と「(他者との)つながり」です。これらを観念的な
説教ではなく、豊富な例やデータを示しながら、それぞれをさらに下位要素
に噛み砕いていきます。

私が特に感じ入ったのは、「楽しむ力」、壁や苦難に対する「意味の発見」
のススメです。下位要素として、
・集中し面白さの兆候を見逃さない
・背景を考え意味を見出す
・達観し後から来る喜びを待つ
が紹介されます。

そう、読み進めていくと、自分が一皮むけた経験が思い起こされ、その時の
苦渋に満ちた自分に伝えたいことが浮かんできます。そしてそれを今の自分
にもう1人の自分が言えばよいのだ、という気付きに至ります。

私とコガ先生は幸いなことに、松尾先生とは7年前の「Work place learnin
g」の企画委員からのご縁。その時の先生のご講演で今でも覚えているのは、
「もう1人の自分」が自分を見つめるメタ認知の説明です。あのマジンガー
Zのパイルダー(巨大ロボットマジンガーZの頭脳部分で、兜甲児の着脱可
能操縦ブース)を引き合いに、「Zから浮き上がったパイルダーからZを見
る感じ」と例示。安田講堂の床に膝から崩れ落ちそうな衝撃は今も鮮烈です。

敬虔なクリスチャンでもある松尾先生。「ガールズバーのねーちゃんに紳士
を気取りながら邪な心を抱いている自分をそろそろ内省しなはれ」、と、あ
の柔和な微笑みでリフレクションされているような気がしてくる今日この頃
です(文責 シバタ)。

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